日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
セッションID: T1-O-8
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T1(口頭).変成岩とテクトニクス
沈み込み帯の流体で形成されたアンチゴライト脈に記録された過渡的な流体移動
*吉田 一貴大柳 良介木村 正雄Plümper Oliver福山 繭子岡本 敦
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抄録

沈み込み帯における流体の流れは、地震活動、マグマ生成、元素循環など様々な地質学的プロセスに関連している。しかし、沈み込み帯における流体の移動のタイムスケールや速度に関する理解は限られている。本研究では、ブルーサイトに富む反応帯を持つアンチゴライト鉱脈の組織観察、微量元素分析、熱力学的考察に基づいて、沈み込み超深部における流体移動のタイムスケールと流速の推定を行った。

本研究で観察した試料は、オマーンオフィオライトの陸上掘削(Oman Drilling Project, Site CM1)において得られた下部地殻から上部マントルセクションまでの試料である。地殻-マントル遷移帯の完全蛇紋岩化したダナイトには、リザダイト(Lz)とブルーサイト(Brc)からなる母岩を切るようにしてアンチゴライトとクリソタイルからなる脈(Atg-Ctl脈)が発達していた。Atg-Ctl脈の一部には、脈の両側にブルーサイトに富む反応帯が発達していた。アンチゴライト脈が形成されたステージを考えるために、LA-ICP-MSによる微量元素分析を行った。その結果、Atg-Ctl脈は母岩の蛇紋石よりもAs、Sb,、HFS元素(Zr、Hf、Ta)に富み、Atg-Ctl脈形成時に沈み込み帯の流体が寄与している可能性が示唆された。 マスバランス計算から、ブルーサイトに富む反応帯を形成するためには母岩から大量のシリカが除去される必要があることが分かった。また、熱力学的な考察から、ブルーサイトに富む反応帯は、アンチゴライトの形成と同時に形成されたことが示唆された。

熱力学的計算と反応帯の幅から、反応帯を形成した流体活動のタイムスケールと流速をシリカの拡散モデルから推定した。その結果、流体は短時間のうちに(1.1×10-1〜2.6×100yr)、現在の沈み込み帯の地震イベントの伝搬速度に近い高速(4.8×10-2〜1.2×10-1 m s-1)で流れたことが示唆された。この結果は、上層プレートへの流体の流出が短期間で起こることを示唆している。

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