日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
セッションID: T4-O-13
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T4(口頭).地球史
後期白亜紀東アジア大陸縁後背地レビューと後背地の隆起が前弧海盆堆積体に及ぼす影響について
*才鴈 純平
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キーワード: 後期白亜紀
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抄録

日本各地の後期白亜紀堆積相は古典的な堆積学による解釈から,Haq et al. (1988)に基づく海水準変動を取り入れた解釈,さらにはシークエンス層序学の概念を取り入れた研究例もみられている(安藤ほか,1995).一方で,砕屑物供給量や堆積場のテクトニクスなどについては解釈が難しい部分も出てきた.近年,判明してきた後期白亜紀の東アジア・テクトニクスについての最新知見は,後期白亜紀堆積相の解釈に大きく影響すると考える.

そこで,本発表では,1)後期白亜紀東アジアのテクトニクスと堆積相解析について既存研究をまとめ,2)そのような環境が,日本各地の後期白亜系海洋堆積物にどのような影響を及ぼしたかについて,那珂湊層群などを例として作業仮説を提案する.

1)後期白亜紀東アジア・テクトニクス;2000年代以前,Okada(1997)は,日本における前弧海盆堆積層の堆積速度より,後背地に隆起帯が存在した可能性を示した.寺岡ほか(1998)は,後背地の隆起に呼応して,前期白亜紀末から後期にかけて西南日本の和泉層群より前弧域が沈降したことを示唆した.2000年代には,Chen (2000)は,中国大陸内陸における堆積盆が白亜紀中期~後期にかけて砂漠化したことを示唆した.これは,内陸の堆積盆と前弧域とを境するように大陸縁に沿って障壁としての隆起帯が存在したことを意味する.2010年代以降には,その大陸縁隆起帯の隆起原因など詳しい研究が行われた(Song et al., 2015;Zhang et al., 2016;石坂ほか, 2021).隆起は,火成活動活発化などによって生じ,特に前期白亜紀末~後期初め,白亜紀後期末頃に花崗岩体を主体としていた(石坂ほか, 2021).

2)後背地隆起による海洋堆積層への影響;上記のように,後期白亜紀の東アジアでは,大陸縁隆起帯が詳細にわかってきた.これは,日本各地の後期白亜紀堆積相において,その後背地からの供給量,時期,岩種を限定する材料となり,さらなる再検討が必要である.文献や発表者が調査を行った那珂湊層群を例に,隆起の前弧海盆堆積物への影響を推定し示す.

例えば,双葉層群はジルコン年代より,コニアシアンからカンパニアンの堆積体であるが,採取されたジルコンはアルビアンからカンパニアンが多数を占めると報告されている(長谷川ほか,2020).和泉層群はカンパニアンからマーストリヒシアンの堆積体であり,その堆積速度は約4000 m /Maと速かったことが知られる(Okada,1997).

発表者が調査を行った那珂湊層群は花崗岩礫を多量に含んでいた.これらの堆積体は,隆起による砕屑物供給の影響を示す可能性がある. 那珂湊層群はカンパニアンからマーストリヒシアンの堆積体である.地表踏査の結果から,堆積相は上方粗粒化を示し,地すべり性堆積物より,堆積環境は斜面上であると考えている.ただし,生痕化石や粗粒堆積物等からは現生の大陸斜面より浅い,陸棚性の環境を示唆している.これは,陸棚があまり発達せずに,後背地に接近する形で,陸棚斜面が形成されたのだと解釈した.これは白亜紀末の後背地隆起により,前弧海盆陸側堆積面の斜面勾配が増したためと解釈する.また,このことは大陸縁沿岸域においての相対的な海水準変動に影響を与えるだろう.このような状況は砕屑物供給量にも左右されるが,デルタや陸棚の発達に制限をかけたことを推測する.

以上に示したように,後背地の隆起は砕屑物供給量・堆積地形・沿岸域での海水準への影響を与えると考える.

今後,大陸縁隆起帯とこれらの日本各地の後期白亜紀堆積体をリンクさせるような解釈が求められている.活発な後期白亜紀東アジア縁辺域においては,単純に海水準変動のみにスポットを当てるだけでなく,後背地の隆起など,前弧海盆を取り巻くテクトニクスにも大きく注目する必要があることを提起する.

引用文献

安藤ほか, 1995, 地学雑, 104, 284-303.

Chen, 2000, Developments in Palaeontology and Stratigraphy ,17, 81-90.

長谷川ほか, 2020, 地学雑, 129, 49-70.

Haq et al, 1988, Soc. Econ. Paleontol. Mineral. Spec. Publ., 42, 71-108.

石坂ほか, 2021, 地学雑, 130,63-83.

Okada, 1997, Geo. Soc. Japan., 48, 1-6.

Song et al., 2015, Cretaceous Res., 55, 262-284.

寺岡ほか, 1998, 地調月報, 49, 395-411.

Zhang et al., 2016, Earth Planet. Sci. Lett.,456, 112-123.

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© 2022 日本地質学会
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