日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T8-O-6
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T8.フィールドデータにおける応力逆解析総決算
応力逆解析と性状比較による断層の区分と成因評価
*小林 健太石井 拓也馬 寅瀚林 宏樹林 茉莉花
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抄録

応力逆解析は多数の小断層について姿勢とセンス(以下,スリップデータ)を測定し,応力を求める手法である.その結果を,より広域で認識されている応力変遷と比較することにより,変形ステージ区分がなされてきた.しかしながら,それが時間・空間的にどの範囲で一定なのか,必ずしも明確ではない.そこで,中新世〜更新世の堆積岩・火山岩類が分布し,東西ないし北西-南東圧縮が進行する,新潟県新津丘陵に形成された小断層を対象に,性状の記載と応力逆解析を行った.なお,本研究は新潟大学と原子力規制庁の共同研究「断層の成因評価に関する基礎的研究」の一部として実施した.金津地域に分布する上部中新統〜鮮新統金津層について,9露頭を調査した.100条以上の断層を記載し,約80セットのスリップデータを得た.主に砂岩泥岩からなる地層は北方に中角度で傾斜する.断層は北または南傾斜であり,累重する地層を切断しながら連続,数cm-10数cm程度の傾斜隔離を与える.ほとんどは断層ガウジを伴わない.また,連続性は悪いが群集し,個々の隔離は小さいものの,表面に条線が観察され断層と判断されるもの(以下,“割れ目”)が識別された.さらに,断層ガウジを伴う複数の断層が並走し,変位量が数mを示すものがある.下盤の地層が連続的あるいは分断されつつ引きずられ,断層スミアを形成する.矢代田地域に分布する更新統矢代田層については,約20セットのスリップデータを得た.主に未固結の砂からなる下部層と,礫・シルトからなる上部層に分けられる.ともにほぼ水平ないし北西に緩傾斜する.断層は下部層では北西,上部層では北東あるいは南西に傾斜するものが多い.取得したスリップデータについて,当地域の先行研究である冨田・山路(2001)と同じ条件で多重逆解法を用いて応力解析を行った.金津層からの結果として,σ1は共通して鉛直,σ3は1)基円上に分布(一軸短縮),2)北北西-南南東,3)北東-南西を各々示し,3つのクラスターが識別された.“割れ目”ではクラスター3,それを除いた断層ではクラスター2が卓越する.一方,大変位を示す断層では,σ3が東北東-西南西を向く(一軸伸長).矢代田層下部の結果は異質であり,σ1が低角度で北東-南西を向く応力(一軸短縮)が,最も多くのデータを説明する.矢代田層上部のデータは少ないが,σ1は鉛直,σ3は北北東-南南西を向く結果となった.断層の表面(鏡肌)を実体顕微鏡および卓上型SEMで,断層ガウジ帯を挟在する試料をX線CTを用いて,それぞれ観察した.“割れ目”上には不連続なくぼみ状の条線が形成され,直線的な溝は認められない点で,一般的な条線とは異なる.X線CT画像では,微細な剪断面やガウジ帯が明瞭に識別できることを確認した. 金津層から認識した応力(クラスター)1・2・3は,冨田・山路(2001)の応力A・B・Cに,各々対比される.応力AはBに付随して現れた見かけ上のものとされたため,応力1も同様と考える.彼らは各応力が卓越する断層の性状を示していないが,今回それがなされたことになる.応力Cは矢代田層からも認識されることからその堆積後,認識されない応力Bは堆積前との考察にはほぼ同意する.彼らが図示したデータ採取地点は矢代田層の下部層(〜0.61Ma:村松,2007)であるが,我々が応力3を得たのは,同上部層であり,応力3はより新期まで継続した可能性がある.同時に,“割れ目”はそれ以外の断層に切断される場合もあり,応力2と3は共存した期間があると考えられる.なお,我々が同下部層から得た応力の意義については,現時点で合理的な解釈に至っていない.いずれにせよ,現在の広域応力場とは異なる応力を被った断層,あるいは別の成因による断層等が,最近まで形成されていた可能性が高い. 文献: 冨田 智・山路 敦,2001,共役断層による小断層解析はすべて誤りか? 新潟県新津丘陵における多重逆解法と共役断層法との比較.地質雑,107,711-721. 村松敏雄,2007,新潟市新津丘陵に分布する凝灰岩及び火山岩のフィッション・トラック年代.フィッション・トラックニュースレター,第20号,44−47.

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© 2023 日本地質学会
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