日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T8-O-8
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T8.フィールドデータにおける応力逆解析総決算
(エントリー)沈み込みプレート境界浅部遷移帯におけるメランジュ形成時の流体圧比の地質学的制約
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*細川 貴弘橋本 善孝乾 宏樹本田 和輝
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抄録

はじめに   高い流体圧は有効法線応力を減少させるため、断層挙動に大きな影響を与える。しかし、沈み込みプレート境界浅部(<2.5km)を除いて、沈み込みプレート境界に沿った流体圧比を定量的に制約した例はほとんどない(Tobin and Saffer, 2009)。そこで、本研究では、西南日本白亜系四万十帯横波メランジュを対象にメランジュ形成に伴い発達したと考えられる伸長鉱物脈に応力逆解析を行い、メランジュ形成時の応力場を明らかにした上で、流体包有物解析と岩石破壊理論を組み合わせた手法(Hosokawa and Hashimoto, 2022)を用いて沈み込みプレート境界の流体圧比の制約することを目的とする。 地質概説   本研究対象地域は、白亜系四万十帯に属する横浪メランジュであり、主に砂岩からなるブロックと黒色頁岩からなるマトリックスで構成されている。このメランジュ構造を切る剪断脈は流体包有物解析により、温度・圧力が約175-225℃、約143-215MPaと推定されている(Hashimoto et al., 2012)。本研究で対象にする伸長鉱物脈は、2つの種類に分類することができる。1つ目は砂岩ブロックの長軸に対し高角に発達している伸長鉱物脈(Type 1鉱物脈)、2つ目は砂岩ブロック周囲のマトリックスに発達する伸長鉱物脈(Type 2鉱物脈)である。 手法  本研究では、まずType 1 鉱物脈とType 2鉱物脈に対して応力逆解析を行い、応力場と駆動流体圧比(P*)を推定した(Yamaji and Sato, 2011, Yamaji, 2016, Faye et al., 2018)。P*は、伸長鉱物脈形成時の最大過剰流体圧(ΔPo)を差応力で正規化したものである(Otsubo et al., 2020)。さらに、砂岩ブロックが回転していないか検討するため、応力角距離を用いて2つの応力場を比較した(Yamaji and Sato, 2019)。次に、Type 1鉱物脈に対し流体包有物解析を行い、鉱物脈形成時の温度・圧力を推定した。最後に、応力逆解析から推定されるP*と岩石破壊理論から制約される鉱物脈形成時の流体圧の上限と下限がそれぞれ流体包有物から推定される流体圧の最大値と最小値と一致する時の鉱物脈形成時の深さと岩石引張強度を制約する(Hosokawa and Hashimoto, 2022)。 結果・議論  Type 1鉱物脈とType 2鉱物脈からともに正断層応力場が得られ、応力角距離から砂岩ブロックは回転していないと言える。また、流体包有物解析から鉱物脈形成時の温度・圧力は、約175-203.5℃、約171.2-217.9MPaと推定された。そして、正断層応力場での岩石破壊理論と推定されたP*、流体包有物から推定される流体圧から、鉱物脈形成時の深さは、約7.9km、岩石引張強度は約11.7MPaと制約された。さらに、推定された深さ、岩石引張強度と流体圧から、流体圧比が約0.83-1.05、最大差応力が約46.8MPaと制約することができる。 流体包有物解析から推定されるType 1鉱物脈と剪断脈の形成時の流体温度が重なることから、延性変形と脆性変形が混在していることが示唆され、横浪メランジュは沈み込みプレート境界の延性-脆性遷移帯に相当すると考えられる(Hashimoto and Yamano, 2014)。 本研究結果により、現在の沈み込みプレート境界浅部(<2.5km)と同様に延性-脆性遷移帯(約7.9km)においても高い流体圧比が示され、沈み込みプレート境界地震発生帯上端まで高い流体圧比と低い断層強度が維持されていることが示唆される。 引用文献Tobin and Saffer, 2009, Geology, 37, 679.Hosokawa and Hashimoto, 2022, Scientific Reports, 12, 14789.Hashimoto et al., 2012, Island Arc, 21, 53-64.Yamaji and Sato, 2011, Journal of Structural Geology, 33, 1148-1157.Yamaji, 2016, Island Arc, 25, 72-83.Faye et al., 2018, Journal of Structural Geology, 110, 131-141.Otsubo et al., 2020, Scientific Reports, 10, 1-8.Yamaji and Sato, 2019, Journal of Structural Geology, 125, 296-310.Hashimoto and Yamano, 2014, Earth, Planets and Space, 66, 1-9.

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© 2023 日本地質学会
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