主催: 一般社団法人日本地質学会
会議名: 第130年学術大会(2023京都)
回次: 130
開催地: 京都大学
開催日: 2023/09/17 - 2023/09/19
1.はじめに 紀伊半島南部に位置する和歌山県那智勝浦町や新宮市の間には大雲取山(標高966m)を中心にした標高400m以上のまとまった山地がある。この高い大雲取山周辺の高い山の南山麓地域で、なだらかな地形が広く分布しているが、1m DEM のレーザー測量結果を利用した陰陽図による解析の結果、そこには2万5千分1地形図ではわからなかった棚田地形がひろく分布していることが明らかになった(此松・秋山, 2020)。航空写真などによっては一部では明らかにできるが、時代とともに棚田地形は棚田をしないことで棚田地形に植林がされたりしているため、写真上では見えない状態になっているものも多数あった。今回の研究では、さらに大雲取山周辺の熊野酸性岩類の分布地域全体の山麓を含めた棚田地形の分布をデータを増やして陰陽図から明らかにすることができたので報告する。2.地形・地質概要 紀伊半島には紀伊山地という大きくまとまった山体がある。それから外れた独立した標高500m以上の小さな山が紀伊半島南東部の沿岸に沿って並んでいる。その南端部にの大雲取山(標高966m)をメインとした山体が和歌山県那智勝浦町、新宮市にも分布して、独立した山体になっている(図1)。この大雲取山周辺の高い山体は図1のように地質的には新第三紀中新世の火成岩体(熊野酸性火成岩)からなり、その周りの低い山地は新第三紀中新世に堆積した海成層(熊野層群)からなり、泥岩層、砂泥互層からなる地質であり、火成岩とは貫入関係である。相対的に火成岩より侵食しやすい堆積岩が周りで低くなることで、大きな山体になっている。地質の違いが地形に現れていて、緩やかな堆積岩の地形に棚田や集落が分布している。3.陰陽図による地形解析と現地調査 レーザー測量1mメッシュD E Mは近畿地方整備局から借用したデーターを使い、陰陽図は朝日航洋株式会社によって作成された。これでは尾根は赤系、谷は青系で示され、急傾斜では色が濃くなり、平坦なら白くなって示され、立体的にも見えるようになる。それで解析したところ棚田地形が山麓で広く分布し、それ以外の場所ではあまり分布していない。4.結果 棚田地形は酸性岩類の周りの山麓に分布する堆積岩分布地域だけに広く分布して、そこから離れた堆積岩の地形には棚田地形はほとんど見ることができない。また棚田地形は北側山麓より南側山麓の方が広く分布している。この山麓の堆積岩の分布では川幅が広かったり、川を伴う谷地形の幅が広く、そこに棚田地形が広く分布している。このように傾斜が急傾斜の酸性岩類(流紋岩類)から緩傾斜の堆積岩(熊野層群)のような地質の違う不整合周辺で広く分布していることを明らかにした。現地調査も含めると、ここで示す棚田地形には厳密に棚田として稲を栽培しているだけでなく、茶葉の栽培や植林地として利用されている。棚田地形は土石流後の谷に造られている場合と尾根などを切って切土状で造られたテラスがあることも明らかにできた。擁壁には丸い酸性岩類(流紋岩)のコアストーンの石を利用して作られている。5.考察 山麓の広い川幅の谷地形にはかつての土石流堆積物が堆積し、その上に棚田地形が作られていると考えられる。そのため山麓には幅の広い谷が観察される。尾根を切ったテラス地形は集落跡の可能性がある。かつて山麓周辺は鉱山もあったことから多くの人が居住していたとも言われている。江戸時代から土石流堆積物の上に棚田地形を作るのが当時に絵図(熊野名所図絵)でも描かれていることから、土石流堆積物の上に意図的に棚田地形を作っている可能性もある。そのため土石流分布と棚田地形の分布がほぼ一致している。中島他, (2017)によると2011年の台風12号の紀伊半島大水害を被った棚田を調査したところ、土石流の被害が棚田のある所で軽減していたことを明らかにしている。このことは日当たりの悪い北側斜面でも棚田地形が存在することから米作りだけでなく、防災の観点からも棚田地形を積極的に作った可能性が示唆される。謝辞本研究の一部はJSPS科研費17K01033の助成を受けたものです。文献此松昌彦・秋山幸秀(2020)陰陽図を利用した仮想空間による地形認識の研究:和歌山県那 智勝浦町での事例, 和歌山大学教育学部紀要. 自然科学, 70, 47−50.中島敦司・中野慎二・Ganeindran Rainoo Raj・水町泰貴(2017)棚田地形が土砂崩落の軽減に与える影響: 日緑工誌, 43, 199-202.