日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T14-O-9
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T14.原子力と地質科学
土岐花崗岩における物質移行特性に関する研究:鉱物の微小空隙がもたらす物質移動の遅延
*湯口 貴史笹尾 英嗣火原 諒子村上 裕晃尾崎 裕介
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抄録

結晶質岩(花崗岩)に対する高レベル放射性廃棄物の地層処分の実施可能性が様々な国で検討されている。高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価において,地下水シナリオ(地下水によって放射性物質が処分施設から人間環境に運ばれるシナリオ)を想定した場合,結晶質岩(花崗岩)の物質移動特性を把握し,物質移動モデルを構築することは重要な課題である。結晶質岩中の物質移動現象としてマトリクス拡散がある。これは地下水や地下水中の溶存物質が,割れ目を移動しつつ濃度勾配により割れ目周辺の岩石へ拡散し,鉱物へ吸着することで,物質移動が遅延する現象である。マトリクス拡散は,高レベル放射性廃棄物の地層処分において地下水に溶解した放射性核種の移動を評価する上で重要な現象である。この拡散現象の評価に資するデータとして,岩石試料に対する透過拡散試験による実効拡散係数や水銀注入試験による空隙率が報告されているが,岩石を構成する鉱物に対する知見は得られていない。中部日本の土岐花崗岩において,黒雲母や斜長石の熱水変質に伴い,鉱物中に微小空隙が生じることが報告されている(Yuguchi et al., 2021; 2022)。本研究では鉱物中の微小空隙がマトリクス拡散に寄与する物質移動経路であるという作業仮説のもと,結晶質岩中の微小空隙を内包する鉱物を対象とした岩石記載と透過拡散試験による実効拡散係数の比較検討から,上記の仮説の妥当性を検討する。  本研究では以下のパラメータを比較検討の対象とする:①透過拡散試験による実効拡散係数・空隙率のデータ(前年度の地質学会報告:笹尾ほか, 2022),②透過拡散試験を実施した岩石試料のモード(鉱物組み合せとその量比),③割れ目密度のデータ,そして④鉱物の変質程度(変質パラメータ)と微小孔の分布割合(Yuguchi et al., 2021; 2022)。  検討の結果,以下の(A)から(C)の条件で,ウラニン,バリウム,ルビジウム,塩化物イオンの実効拡散係数が減少することを把握した:(A)黒雲母・斜長石の変質程度が高くなる,(B)黒雲母・斜長石の微小空隙の体積が多くなる,(C)岩石試料の割れ目密度が高くなる。変質・微小空隙・割れ目の関係はYuguchi et al. (2021; 2022)において言及されており,鉱物の変質は微小空隙と関連し,それらが増大すると割れ目密度も増大することが分かっている。 これらの検討は(α) 変質によって形成された鉱物(黒雲母と斜長石)中の微小空隙がマトリクス拡散による物質の遅延に寄与する‘storage pore’として機能すること,(β)微小空隙中にトレーサーが吸着されること(閉じ込められること)で物質移動の遅延をもたらすこと,(γ)割れ目の多い領域では,割れ目を通じた移流現象は活発であるが,物質移動の遅延も機能することを示す。これらのことは岩石学的調査に際して鉱物中の変質程度の評価がマトリクス拡散(物質の遅延現象)の指標となることを示唆する。

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