日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T14-O-10
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T14.原子力と地質科学
新第三紀堆積岩に発達する小規模なせん断面の解析
*田村 友識石井 英一
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抄録

北海道北部、幌延地域には稚内層(珪質泥岩)や声問層(珪藻質泥岩)からなる新第三紀堆積岩が分布し、日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターでは20年以上にわたり当該地域において地層処分に関する研究を実施してきた。ボーリング調査や地下坑道への掘削に伴って得られた地質情報からは、声問層と稚内層の境界付近で岩盤強度が局所的に増大する領域があることが報告されており(Ishii et al., 2011)、岩盤強度には不均質性が存在する。場によって岩盤の硬さが異なれば被る応力にも違いが生じうることが考えられるが、実際に水圧破砕法からも場によって応力場の違いが確認されている(Ishii, 2020)。例えば、地下400 m付近では水平方向の応力よりも鉛直方向の応力が大きくなっており、幌延深地層研究センターの地下施設で実施したボーリング調査からも正断層センスを示すせん断面が確認されている(Ishii, 2020)。一方で、幌延地域の応力場は最大圧縮応力軸が概ねE-W方向、最小圧縮応力軸が概ねN-S方向であるため、上記のような正断層センスを示すせん断面は、幌延地域の広域的な応力場で動いたとは説明できない局所的なものである。局所的な応力場に規制されて活動した断層は広域的な応力場に規制されて活動した断層と一連の連結性を有するとは考え難いため、局所的な応力場のスケールが理解できれば、その場で発達した断層の規模の予測にもつながる。本発表では、局所的な応力場のスケールやその場に発達する断層が野外調査においても確認可能かどうかを調査し、その場に発達する断層が有する規模を評価する。 研究の対象としては、幌延地域の代表的な断層である大曲断層から有意に離れており、良好な露出状況が期待できる上幌延の採石場を調査場所として選定した。調査対象である稚内層の壁面からは64条のせん断面を記載することができ、NNW-SSE~N-S走向の低角なせん断面とNW-SE走向の高角なせん断面が多く認められた(アップロード画像を参照)。これらは層理面に平行なせん断面と層理面に直交あるいは斜交するせん断面に分けられる。層理面に平行なせん断面からは逆断層の運動センスが認められ、褶曲形成期と同時に発生したflexural-slipを示唆する(石井・福島, 2006)。一方で、層理面に直交あるいは斜交するせん断面からは横ずれセンスが認められるも、一部で正断層センスが確認された。正断層センスを伴う断層は、断層角礫を有し東側が沈降する。 石井ほか(2006)では大曲断層の近傍(ダメージゾーン)で正断層センスを有する断層を確認しているが、大曲断層は東側隆起の逆断層であることから、正断層センスで東側隆起のせん断面は大曲断層の花弁構造として解釈されている。そのため、上記のような東側が沈降する正断層センスのせん断面は、大曲断層の花弁構造とは本質的に異なる。また、石井ほか(2006)において示される応力場を想定した場合、本研究で確認した正断層センスを伴う断層はミスフィット角がいずれも30度を上回るため、石井ほか(2006)の応力場では説明ができない運動像である。さらに、石井・福島(2006)において示される応力場を想定した場合も同様に、いずれもスフィット角が30度を上回るため、石井・福島(2006)において示される応力場でも説明がつかない。このようなことから、本研究で確認した正断層センスを伴う断層は、地域の局所的な応力場に規制されて活動した断層であると判断した。本研究では、野外調査においても局所的な応力場の存在を示すことができたものの、その場に発達する断層の規模については評価が乏しい状況であるため、今後は本研究で確認した正断層センスを伴う断層の延長部分を調査し、その連続性を評価する予定である。文献Ishii, 2020, Engineering Geology, 275, 105748; Ishii et al., 2011, Engineering Geology, 122, 215-221; 石井・福島, 2006, 応用地質, 47, 5, 280-291; 石井ほか, 2006, 地質学雑誌 112, 5, 301-314.

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