日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: G1-O-6
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G-1.ジェネラル サブセッション構造・海洋・堆積・地域地質
沈み込み帯での熱分解起源のメタンと水素の生成,排出,移動
*鈴木 德行小池 恒太郎亀田 純木村 学
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抄録

南海トラフ沈み込み帯では泥火山やメタンプルーム,ガスハイドレート,BSR(海底疑似反射面)が顕著である。また,静岡県や宮崎県の沿岸陸域には水溶性ガス田や多くのガス徴がある。このような多様で大規模なメタン活動はプレートの沈み込みに伴うアンダースラスト堆積物中での熱分解起源メタン・水素の生成に主に起因していると考えている(Suzuki and Kameda, 2022)。一方,東北日本の阿武隈沖~三陸沖の沈み込み帯はメタンハイドレートの空白域となっており,その他のメタン活動もほとんど認められていない。今回は,海洋プレートの沈み込みに伴って生成する熱分解起源メタン・水素の排出(一次移動)とその後の二次移動に焦点をあて,沈み込み帯の特徴とメタン活動との係わりについて検討する。 南海トラフではアンダースラスト堆積物中での熱分解起源メタンや水素の生成は深度約10~20 km,温度約200~350℃で生じており,水素生成帯は変成作用の領域に達している。このような大深度では根源岩の浸透率は極めて低いので生成した熱分解ガスの排出は容易でない。しかし,南海トラフでは深度10~20 kmのデコルマ付近は地震破壊域に対応しており(Kimura et al., 2018),地震発生による根源岩の破壊や断裂と過剰圧力の解放に伴った生成ガスの排出(一次移動)が生じ得る。一方,ガス生成圧の上昇が岩石破壊や地震発生に寄与している可能性もある(Raimbourg et al., 2017)。南海トラフの沈み込み帯ではデコルマや分岐断層を通じてスラブ起源流体や堆積物に由来する流体が活発に移動している(Park et al., 2002; Saffer and Tobin, 2011)。Zhu et al.(2022)によると水素の溶解度は温度や圧力の上昇にともなって顕著に増大する。一方,温度や圧力が増加してもメタンの水への溶解度はそれほど大きく変化しない(たとえば,Duan et al., 1992)。そのため,高温高圧下では水素は溶存水素として深部流体とともに挙動し,メタンの多くは遊離メタンとして挙動していることが推察される。南海トラフでは,熱分解起源メタンが主に寄与している泥火山や水溶性ガス田は陸側に分布し,深部にある熱分解起源メタン生成帯の上部付近に位置している。これは根源岩から排出されたメタンが浮力によって主に上方移動しているためと考えられる。一方,ガスハイドレートやそれらを示唆するBSRは沈み込み帯の海底下に広範囲に分布している。水素は水素資化性メタン菌による微生物起源メタンの生成に不可欠である。ガスハイドレートの広域的な分布は熱分解起源水素が深部流体に溶存し分岐断層等を通じて広域的に移動していることによるものと推察している。 東北日本の沈み込み帯でもアンダースラスト堆積物が深部にもたらされ,南海トラフと同様に熱分解起源のメタンや水素が生成しているはずである。しかし,東北日本の阿武隈沖~三陸沖の沈み込み帯では南海トラフのようなメタン活動がほとんど認められない。フィリッピン海プレートと比較すると,太平洋プレートはより冷たく,傾きや沈み込み速度が大きい。そのため,熱分解起源のメタンや水素の生成や排出はより大深度の高圧下で行われる。また,東北日本の沈み込み帯では深部流体が浅部へ移動することが容易でない(片山,2016)。東北日本の太平洋側でメタン活動が乏しいのは,熱分解起源ガスの生成深度が深いこと,スラブ起源流体の移動が容易でないこと,そして付加体が少ないなど二次移動経路に乏しい地質構造であるためと考えられる。太平洋プレートの沈み込み帯でも北海道の日高沖や東関東の鹿島~銚子沖にはガスハイドレートによると想定されているBSRが有意に分布している。日本海側の富山湾~能登半島沖にも顕著なBSRが検出されている。これらのBSRは深部でのプレート活動や流体移動が活発に行われていることを示しているのかもしれない。文献:Duan, Z. et al. (1992) GCA 56, 1451−1460; 片山郁夫(2016)火山,61, 69−77; Kimura, G. et al. (2018) PEPS. 5, 78; Park, J. et al. (2002) Science 297, 1157−1160; Raimbourg, H. et al. (2017) Tectonophys. 721, 254−274; Saffer, D.M. and Tobin, H. (2011) Ann. Rev. Earth Planet. Sci. 39, 157−186; Suzuki, N. and Kameda, J. (2022) SCG48-02, JpGU Meeting; Zhu, Z. et al. (2022) Energies 15, 5021.

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© 2023 日本地質学会
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