日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T5-P-12
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T5.テクトニクス
(エントリー)中央構造線近傍・三波川帯における延性変形構造の空間変化に基づく固着度不均質性評価
*長谷川 凌平森 宏山岡 健山岸 弘治常盤 哲也木村 陽介野部 勇貴
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抄録

[はじめに]現在活動を続ける地下深部の断層面には,固着度不均質性が存在し,このことが断層の破壊領域および地震規模の主な規定要因と想定されている(e.g. Kanamori, 1986).一方,陸上大断層周辺の地質は,かつて地下深部で断層運動を経験しており,固着度不均質性の物質科学的検証に有用といえる.ただし,地球物理学的観測から推定される固着度不均質性の空間規模はkmスケール以上であり(e.g. Wyss et al., 2000),上記検証には同程度の規模での地質学的アプローチが重要となる.そこで本研究では,日本陸上最大の断層である中央構造線(MTL)近傍・三波川帯における数十kmスケールでの野外調査を実施し,固着度不均質性に対応した地質構造の特徴検出を試みた. MTL近傍の三波川帯岩石は,様々な深度・時期に生じたMTLの断層運動の影響を被っている.紀伊半島中央部では,三波川帯北限のMTLに近づくにつれて,褶曲軸面の姿勢が北に倒れ込む変化が報告され,この空間変化はMTLの正断層運動に起因すると結論づけられている(Fukunari & Wallis, 2007).このことは,MTLの正断層運動時に高固着度領域が存在していたと解釈可能である一方,MTLに沿った側方変化は不明である.そこで本研究では,同地域における広域野外調査(調査範囲:東西約30 km × 南北約3 km)より,MTL近傍での延性変形構造の空間変化の詳細究明を目的とした.[地質概要]本研究地域の三波川帯には,ほぼ東西走向で北傾斜を呈すMTLを北限として,付加体起源の変成岩類が分布し,北部の粥見コンプレックスと南部の波瀬コンプレックスに細分される(e.g. Jia & Takeuchi, 2020).粥見コンプレックスは微細褶曲が発達した泥質岩を主体とする一方,波瀬コンプレックスも泥質岩主体ではあるが,粥見コンプレックスに比べて細粒であり,微細褶曲はほとんど認められない. 本研究地域の主な延性変形構造は,普遍的に発達する片理と,これら主片理を曲げる褶曲構造であり,前者は変成ピーク直後の上昇初期,後者はそれより後の変形構造に該当する(e.g. Yamaoka & Wallis, 2022).一方,脆性変形に関しては,MTLから数百m以内において脆性剪断組織が顕著であり,また,調査地域全域で北東–南西〜東北東–西南西走向の高角胴切り断層が卓越する.[広域地質構造]延性変形構造の大局的な傾向としては,主片理面の走向は概ね東西〜西北西–東南東に集中する一方,傾斜は北傾斜と南傾斜が混在する.また,主片理面上の鉱物線構造は概ね東西トレンドの低角プランジを呈す.褶曲構造に関しては,褶曲軸は東西トレンドかつ低角プランジが卓越する一方,軸面は主片理面と同様に傾斜方向がばらつく. 粥見コンプレックスでは,褶曲構造が東西方向に10 km以上にわたって追跡でき,胴切り断層による延性変形構造の改変が限定的であることを示す.一方,粥見–波瀬コンプレックス境界では,境界をまたいで主片理面の急激な姿勢変化が認められ,延性変形時の空間的連続性が保たれていない可能性がある.そこで,以下のMTLと延性変形構造の空間変化に関する議論では,粥見コンプレックスのみに着目する.[延性変形構造の空間変化]調査範囲を東西方向に6 km間隔,南北方向に500 m間隔に区切って,より詳細な空間変化を検討した.その結果,褶曲軸面に関して,MTLから南に500 m〜1000 m離れた領域では,約20ºの南傾斜が卓越して東西変化が乏しい一方で,MTLから500 m以内では,西から東にかけて,約20ºの南傾斜,約20ºの北傾斜,水平傾斜,約20ºの南傾斜,水平傾斜の系統的な変化が認められた.この不均質な空間変化の特徴は,MTLの断層運動時に,断層面上に約10 km規模の固着度不均質性が存在していた可能性を示す.[引用文献]Fukunari & Wallis, 2007, IAR, 16, 243–261; Jia & Takeuchi, 2020, JAES, 196, 104342; Kanamori, 1986, Annual Reviews of Earth and Planetary Sciences, 14, 293–322. Wallis et al., 1992, IAR, 1, 176–185; Wyss et al., 2000, JGR, 105, 7829–7844. Yamaoka & Wallis, 2022, IAR, 31, e12440.

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© 2023 日本地質学会
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