日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T5-P-13
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T5.テクトニクス
長大変形下の砂箱実験における付加体形成時の応力変化とサブダクションチャネルの重要性
*高下 裕章野田 篤宮川 歩夢大熊 祐一橘 隆海兼子 尚知大坪 誠
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抄録

アナログモデル実験は実際の地質構造や断層の形成過程を再現する手法であり、初期条件を変化させることで、造山帯や沈み込み帯における地質構造形成プロセスを理解する手段として利用されている[1]。近年、このアナログモデル実験は、変形の定量化技術や(例えば[2])、陸側の壁面にロードセルを設置し、変形時に連続測定した水平応力(最大主応力σ1)から、ウェッジ変形時の応力変化を議論する研究も進んできた[3]。 しかし、ウェッジの変形様式やウェッジ強度の時間変化を定量的に理解するためには、最大主応力(σ1)と最小主応力(σ3)の両方を知る必要があるが、そのような実験的研究はこれまでに報告されていない。そこで、産総研では、装置の陸側壁面と底面に応力センサーを組み込み、σ1とσ3を同時に連続測定できる新たな砂箱実験装置を立ち上げた。これにより、画像解析による変形の定量化と応力変化とを組み合わせた解析が初めて可能になった。 本研究の目的は、(1)付加体形成における断層活動の時空間分布(画像解析)と最大・最小主応力の時間変化(応力測定)との関係を明らかにすること、さらに(2)長大変形におけるサブダクションチャネルの役割を明らかにすることである。 アナログ実験では自然の岩石と類似した応力ひずみ曲線を示す材料を用いることが一般的である[4]。そのような材料として、非粘着粘着性の珪砂(豊浦砂)を用い、低摩擦のテフロンシートの上に、2 cm厚の豊浦砂を敷き、モーターでシートを巻き取ることによってプレートの沈み込み再現した。実験では、アウトフラックスが0となる条件Aと1 cm高のアウトフラックスとなる条件Bの2種類の実験を行った。実験材料の詳細なパラメータは[5]に準じる。ロードセルは底面側に、バックストップから近い順番でR1からR5とし合力をRbottomとする。背面はR6,R7,R8と3つのロードセルが存在するが、この合力をRbackstopとした。 実験の結果、条件Aでは前縁スラストが前方へ順序通りに形成されながら付加体が成長する過程が再現された。条件Bでは、サブダクションチャネルの効果によってステージ2の後半では堆積物が深くまでアンダースラストしており、大規模分岐断層に相当する順序外断層が形成された。この順序外断層は、ウェッジ(砂)の内部に発達する断層であり、砂とテフロンシートとの境界に発達するデコルマ面(プレート境界断層)よりも摩擦が大きい。このため、この順序外断層は、高摩擦で急傾斜の内側ウェッジと低摩擦で緩傾斜の外側ウェッジとを境する断層として機能しており、付加体の形成に重要な役割を担っていると考えられる。 付加体の成長過程は、応力変化に基づくと、条件Aでの応力変化はシンプルに2つのステージに区分することが可能である。Rbottom<Rbackstopをステージ1、それが逆転する状態をステージ2とした。ステージ1では、前縁スラストの新規形成が短周期である様子が観察された。条件Bでは応力変化の応答が複雑なことから4つのステージに区分した。Rbottom<Rbackstopであるステージ1、Rbottom<Rbackstop となるステージ2ステージ1、R1>Rbackstopとなるステージ2、付加体前縁部がR3の位置まで進展しのR3応力が上昇し始める地点をステージ3、そこから実験終了までをステージ4とした。ステージ1では、前縁スラストの新規形成が短周期である様子が観察された。 条件Bにおける順序外断層は、例えば南海トラフなどでは津波地震の震源断層として注目されている重要な断層であるため、条件Bにおける断層活動と応力変化についての解析は重要になってくる。今後、画像解析は現在DIC-FFTを使用して解析を進めており[7]、断層形成のタイミングと応力変化の応答時間の差について詳細に議論する予定である。 文献: [1]Graveleau, F. et al. (2012) Tectonophysics, 538, 1-66; [2]Adam, J. et al. (2005) Journal of Structural Geology, 27(2), 283-301; [3]Ritter M.C. et al. (2018) Tectonophysics, 722, 400-409; [4] Lohrmann, J. et al. (2003) Journal of Structural Geology, 25(10), 1691-1711; [5]Okuma, Y. et al. (2022) Tectonophysics, 845, 229644; [6]Dotare, T. et al. (2016) Tectonophysics, 684, 148-156. [7]Bickel, V.T. et al. (2018) Remote Sens.10, 865

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