日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T6-P-11
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T6.堆積地質学の最新研究
三保半島沖の海底谷-海底扇状地における堆積物の特徴
*柴尾 創士坂本 泉横山 由香中村 希平 朝彦
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抄録

静岡県に存在する駿河湾は最大水深2500 mに達する構造性の湾である.湾内には富士川を含む4つの一級河川が流入しており,大雨時には河川から大量の砕屑物が湾内に供給される.2014年に取得した駿河湾内における後方散乱強度図から,富士川前面では粗粒な堆積物を示す強反射が南北かつ網目状に発達する様子が確認される.一方,駿河湾北西部に位置する三保半島沖合海域でも,海底谷-海底扇状地沿いに駿河トラフまで連続する東西かつ筋状に発達する強反射が確認され,堆積物移動の可能性が示唆される.しかし,三保半島に河川はなく,どのような堆積過程で粗粒堆積物の運搬が行われているかは不明である.本研究では,三保半島沖合の羽衣海底谷およびその延長上の海底扇状地における堆積過程を明らかにすることを目的とした. 調査は,後方散乱強度を基に羽衣海底谷-海底扇状地を東西方向(沿岸から沖方向,水深100~1350 m)に横断する測線を設定し,実施した.その際,地形図より測線の地形転換点,および平均勾配を基準とした地形区分を行った.試料採取は,スミスマッキンタイヤ式グラブ型採泥器を用いて,2022年8,10,11月,および2023年3,5,6月の計6回行った.また,採泥器には水中カメラを取り付け,採泥地点周辺の海底環境の把握を試みた.採取した試料は,バケット内部の採取状況を記録(写真,記載)した.その後,堆積物の岩相より極表層,表層,下層に区分し,持ち帰った.これらの試料とは別に角柱状アクリルケ-ス(5×6×20 cm)による柱状試料(層厚約8~13 cm)を採取した.各層に分けた堆積物試料は,ふるい法およびレーザー回析散乱法による粒度分析を行った.柱状試料は肉眼観察,ソフトX線写真を用いた岩相記載とレーザー回析散乱法による粒度分析を行った. 地形区分の結果,研究地域は①羽衣海底谷の谷部(水深100~水深450 m,傾斜約9.8 °,平均勾配約17.2%),②海底扇状地斜面上部(水深450~700 m,約7.7 °,約13.6%)③海底扇状地斜面下部(水深700~1000 m,約9.3 °,約16.4%),④海底扇状地末端部(水深1000~1300 m,約12.0 °,約21.3%),⑤駿河トラフ底(水深1300 m以深,約3.8 °,約6.6%)の5つに区分された.各区分における堆積物の特徴をまとめる. ➀羽衣海底谷の谷部(水深100~450 m)では,主に中粒砂から泥質堆積物(約5φ)が分布した.柱状試料の岩相は,ほとんどの試料で下位に礫を含む粗粒な堆積物(中粒砂から極細粒砂)とその上位の細粒砂から泥質堆積物からなった.ただし,2023年3月に水深450 mで採取した試料では,下位の粗粒な堆積物層に泥質堆積物の薄層(最大層厚1.5 cm)が複数狭在する様子が観察された.②海底扇状地斜面上部(水深450~700 m)では,極表層には主に泥質堆積物(約5φ)が分布し,地点による大きな違いは見られなかった.この範囲では採泥器に礫を挟んで上がってくることが多く ,柱状試料は得られなかった.しかし,その様子から下位には粗粒な堆積物が分布していると考えられる.③海底扇状地斜面下部(水深700~1000 m)では,主に泥質堆積物(約7φ)が分布し,極表層,表層ともに沖合に向かって細粒化する傾向が見られた.また,柱状試料は2地点で採取された.その岩相は,下位に礫を含む粗粒な堆積物とその上位の生物擾乱の発達する泥質堆積物からなった.また,泥質堆積物の最上位には酸化層が確認された.この酸化層には,2022年10月の試料では生物擾乱がみられないが,2023年5,6月の試料では生物擾乱がみられた.④海底扇状地末端部(水深1000~1300 m)では,水深1200 mからのみ試料を採取した.極表層は主に泥質堆積物(約4φ)が分布した.柱状試料の岩相はこれまでの地点と大きく異なり,砂と泥の互層からなった.この砂泥互層は,下位に中粒砂からなる砂層(最大層厚約2 cm)とその上位に5φ程度の泥質堆積物(最大層厚4.5 cm)からなる.この泥層は,下部にラミナ,上部に生物擾乱が認められる. 以上の結果から,三保半島沖の堆積物は,上位の細粒な層(泥から細粒砂)と下位の粗粒な層(極細粒砂から礫)からなる特徴を持つことが明らかになった.これらの堆積物は上位,下位層ともに,浅海域から深海域に向かって細粒化する傾向が認められた.したがって,この地域は一連の堆積過程で堆積していると考えられた.また,表層の酸化層内にみられた生物擾乱の変化から,表層1 cm程度は下位層と比較して変化を受けやすい可能性が推察される.海底扇状地末端部では,それより浅海とは異なり,砂泥互層からなる岩相が認められた.この違いは堆積過程の変化を示していると考えられる.

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