日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T9-P-8
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T9.マグマソースからマグマ供給システムまで
(エントリー)茨城県大子・常陸大宮地域~栃木県茂木地域における中新世アダカイトの時空分布
*小坂 日奈子長谷川 健内山 玄基田切 美智雄細井 淳
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キーワード: 中新世, アダカイト
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抄録

【はじめに】 茨城県の北東部(大子地域)から栃木県南部(茂木地域)には新第三紀火山岩類が多数分布する.これら火山岩類には,大子地域の男体山火山角礫岩のアイスランダイト質デイサイト[1,2],茨城県城里町の塩子アイスランダイト質安山岩[3],茂木地域元古沢層に見られる高TiO2ソレアイト[4]など,通常の島弧では珍しい火山岩がある.また,大子地域の新第三紀火山岩類については,近年,U-Pb年代やFT年代測定,古地磁気層序学的研究による詳細な編年が行われている[5,6].著者らは,日本海拡大に伴う火成活動の変遷やマグマ成因論を詳しく検討する目的で,本地域の中新世火山岩類を対象に岩石学的・地球化学的研究を行っている.本発表では,大子地域北田気層大沢口凝灰岩部層から見い出されたアダカイトの特徴を述べ,さらに,17 –15 Maの大子~常陸大宮~茂木地域におけるアダカイトおよびアダカイト様火山岩類の時空分布と広域対比について議論する. 【試料採取】 大子~常陸大宮~茂木地域にはジュラ紀八溝層群を基盤として,火山岩類を狭在する新第三系が分布する[7,8].大子地域では,栃原流紋岩類の流紋岩貫入岩と,下位から上位に向かって,大沢口凝灰岩部層最下部に産出する安山岩火山岩礫(中津原火山角礫岩[9]に相当),大沢口凝灰岩部層の珪長質火砕岩,浅川層の珪長質凝灰岩,男体山火山角礫岩のデイサイト溶岩,苗代田層の珪長質凝灰岩,内大野層の珪長質凝灰岩を,常陸大宮地域では大沢口凝灰岩部層相当[7,10]とされる小貝野層の珪長質凝灰岩を,茂木地域では茂木層の凝灰角礫岩~火山礫凝灰岩を採取した(図1). 【結果】 各試料の全岩化学組成をXRF,ICP-MSで測定した.得られたデータからSr/Y-Y図(アダカイト判別図)[11]を作成した結果,アダカイトの領域にプロットされたもの(以下,アダカイト),通常の島弧(Normal volcanic arc)の領域にプロットされたもの(以下,通常島弧型火山岩),両領域から外れるが,Yに乏しくアダカイト的なもの(以下,アダカイト様火山岩),の3種類が識別できた(図2).アダカイトは,大子地域の大沢口凝灰岩部層の試料のみであった.アダカイト様火山岩は大子地域の栃原流紋岩と中津原火山角礫岩,常陸大宮地域小貝野層の凝灰岩,茂木地域茂木層の一部(下部層準)の凝灰岩から得られた.本発表で識別したアダカイトおよびアダカイト様火山岩類は,希土類元素(REE)パターン図上で,通常島弧型火山岩に分類された試料に比べて,重希土類元素(HREE)に著しく乏しい傾向を示す.なお,不適合元素パターン図では,アダカイトおよびアダカイト様火山岩類も,通常島弧型火山岩の試料と同様に,島弧火山に特徴的なNbやTa(HFS元素)の負異常を示す. 【議論:アダカイトの時空分布と今後の課題】 大子地域では,大沢口凝灰岩部層より上位ではアダカイトまたはアダカイト様火山岩は認められなかった.大沢口凝灰岩部層は,17.3 ± 1.2 MaのK-Ar年代[9]と16.7 MaのFT年代[12]が報告されていることから,大子地域におけるアダカイト質マグマの生成・活動年代の上限はこの時期に定められる.大沢口凝灰岩部層より下位の層は調査・採取できていないため,下限については不明である. 大子地域の大沢口凝灰岩部層(本研究によりアダカイトと認定)と同年代の栃原流紋岩(同様にアダカイト様)は,茂木層の凝灰岩に対比される可能性が示されている[9].本研究では,少なくとも茂木層の凝灰岩の一部(下部)はアダカイト様の特徴を示すことが分かった.常陸大宮地域の小貝野層が,岩相・化学組成からみて大沢口凝灰岩部層に対比可能であることも考慮すると,アダカイト~アダカイト様マグマによる大規模な火山噴出物が大子~常陸大宮~茂木地域に広域に堆積した可能性が指摘できる.今後は,本地域のより緻密な調査,試料採取および室内分析(化学組成分析・年代測定)によって,アダカイト~アダカイト様火山岩類の時空分布を明らかにし,その給源と成因,そして日本海拡大との関係を検討していく. 引用文献 [1]周藤ほか,1985a,岩鉱.[2]高橋ほか,1995,地質学論集.[3]山元ほか,2023,地質雑.[4]周藤ほか,1985b,岩鉱.[5]Hosoi et al.,2020,J Asian Earth Sci.[6]Hosoi et al.,2023,Tectonics.[7]大槻,1975,東北大學理學部地質學古生物學教室研究邦文報告.[8]星・高橋,1996,地質雑.[9]田切ほか,2008,地質雑.[10]天野ほか,2011,地質雑.[11]Drummond and Defant,1990,JGR. [12]天野ほか,1989,日本地質学会第96年学術大会講演要旨.

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© 2023 日本地質学会
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