日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T12-P-4
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T12.地球史
(エントリー)美濃帯犬山地域のノーリアン/レーティアン境界(後期三畳紀)におけるコノドント・放散虫化石層序
*大島 温志尾上 哲治冨松 由希Rigo Manuel
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抄録

後期三畳紀レーティアンは,中央大西洋火成岩岩石区(CAMP)における大規模火山活動が引き金となって発生した三畳紀末大量絶滅に先行して,段階的な生物の絶滅が起こった時代として知られている.後期三畳紀ノーリアン/レーティアン境界では,炭素同位体比の負異常に伴い,代表的な海生生物(例えば,放散虫やコノドント,アンモナイト)の絶滅および種数の減少が報告されてきた.このうち,炭素同位体比の負の異常は,当時のパンサラッサ海を超えてパンゲア大陸の東西両側及び,北半球,南半球の両方で記録されており,世界的な炭素循環の変動が起こったと考えられている(Rigo et al., 2020).これらの後期三畳紀レーティアンの段階的な生物絶滅や環境変動は,当時のパンサラッサ海遠洋域で堆積した深海堆積物である日本のジュラ紀付加体中の層状チャートにも記録されていると推測される.しかし,ジュラ紀付加体中の層状チャートは主に放散虫化石層序に基づいて年代決定がなされており,大陸縁辺での層序復元に用いられる国際標準のアンモナイトやコノドント化石層序との対比が十分に行われていない.そのため,層状チャートと他地域のノーリアン/レーティアン境界付近における地質記録の厳密な対比を行うことは難しいという問題がある.そこで本研究では,岐阜県犬山地域に露出する美濃帯上部三畳系ノーリアン〜レーティアン層状チャートから産出したコノドントおよび放散虫化石を報告し,ノーリアン/レーティアン境界の層準および指標となる化石種(コノドント,放散虫)を確定することを目的としてコノドント・放散虫統合化石層序の構築を行った.研究では,岐阜県坂祝町の木曽川右岸露頭から採取したチャート試料(22試料)について微化石処理を行い,放散虫およびコノドント化石を抽出した.得られた放散虫・コノドント化石については,Sugiyama (1997)の放散虫化石帯およびRigo et al. (2018)のコノドント化石帯に従って,コノドント・放散虫統合化石層序の作成と年代決定を行った. 研究の結果,検討セクションからSkirtFやPraemesosaturnalis heilongjiangensisLivarella densiporataなどの中期〜後期ノーリアン,前期レーティアンを示す放散虫化石9属21種が産出した.これまで後期ノーリアンの指標種とされてきたBetraccium deweveriは,検討セクションを通じて産出が確認された.またコノドントについては,後期ノーリアン後期を示すParvigondorella andrusoviMisikella hernsteiniなど2属5種が同定された.検討セクション最上部のB. deweveri最終産出層準付近では,Misikella hernsteiniとレーティアンの基底に対比されるMisikalla posthernsteiniの中間的な形態を持つ種(M. posthernsteini s.l.)の産出が認められた.M. posthernsteini s.l. は本来記載されたM. posthernsteini(便宜上M. posthernsteini s.s. とする)とは異なる特徴を有しており,M. hernsteiniからM. posthernsteini s.s.へと形態が変化する段階のものであると考えられている(Caruthers et al., 2021).このことから,M. posthernsteini s.s.の初産出によって特徴付けられるノーリアン/レーティアン境界は,B. deweveri最終産出層準よりさらに上位に位置することが明らかとなった.本セクションのノーリアン/レーティアン境界のより正確な層準を決定するにあたり,M. hernsteini からM. posthernsteini s.l. およびM. posthernsteini s.s.への進化的変化の過程について,層位分布,放散虫化石群集の変化と合わせて今後さらなる検討が必要である.引用文献:Rigo, M. et al., 2020, Earth-Science Reviews, 204, 103180. Rigo, M. et al., 2018, The Late Triassic World, Topics in Geobiology, 46, 189-235. Sugiyama, K, 1997, Mizunami Fossil Mus, 24, 79-193. Caruthers, A.H. et al., 2021, Earth and Planetary Science Letters, 577, 117262.

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© 2023 日本地質学会
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