日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T15-P-9
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T15.地域地質・層序学:現在と展望
関東山地東部,横瀬町芦ヶ久保地域の秩父累帯
*加藤 潔
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抄録

[はじめに]四国や紀伊半島の秩父累帯は,一般に,岩相・地質構造の相違に基づいて,北から北帯,中帯(黒瀬川帯),南帯に区分される.しかし,関東山地東部の秩父累帯の帯区分については,研究者により見解が異なっている(例えば,大藤ほか,2003;Hisada and Hara, 1996;松岡ほか,1998;指田,1992).その主な理由は, 関東山地では,黒瀬川帯を特徴づける岩石(例えば,小澤・小林,1985;島村ほか,2003)が,山中地溝帯南縁と関東山地南東縁の名栗断層帯に報告されているにすぎないためである.筆者は,これまで,埼玉県秩父市浦山地域〜飯能市名栗地域の秩父累帯中軸付近に,黒瀬川帯を特徴づけると考えられるメタガブロや変成岩類を多数みいだし,黒瀬川帯の存在する可能性を指摘してきた(例えば,加藤,2016,2017a).また,加藤(2017b,2019)は,飯能市北部〜横瀬町東部の秩父累帯北帯と中帯の境界付近に,黒瀬川を特徴づける岩石と考えられるメタガブロの露頭や転石を数地点で見いだし,黒瀬川帯の南北幅が広がる可能性を指摘した.本稿では,埼玉県横瀬町芦ヶ久保地域の秩父累帯北帯と中帯の境界付近の地質について記載し,新たに見いだされたメタガブロの転石が,秩父累帯北帯と中帯の境界沿い付近にあることを報告し,その意義を考察する. [地質概略]埼玉県横瀬町芦ヶ久保地域の秩父累帯には,北から南に向かって.秩父累帯北帯の刈場坂ユニット,中帯の花桐ユニットが分布する.本稿では,紀伊半島東側における秩父累帯と同様の岩相・変成相・地質構造の相違に基づく帯区分を行っているため(例えば,加藤, 1995),両ユニットの記載は指田(1992)のものとは多少異なる.両ユニットの境界関係は露頭欠如のため不明であるが.縦走断層であると考えられる.新たに見いだされたメタガブロの転石は,芦ヶ久保駅(西武秩父線)の西方約300 m付近の横瀬川の南側の支流でいくつかみいだされた. [刈場坂ユニット]主に泥質岩基質中にチャート・砂岩・緑色岩の岩塊を含む弱変成メランジュ(千枚岩〜粘板岩程度)からなる.指田(1992)によると,チャートからはペルム紀~三畳紀の,基質からは中期ジュラ紀の放散虫化石が産する.片状構造が発達する. [花桐ユニット]主に泥質岩基質中に緑色岩,石灰岩,チャート,砂岩の岩塊を含む非変成メランジュからなる。緑色岩と石灰岩の大きい岩塊が認められることがある.指田(1992)によると,基質から前期ジュラ紀の放散虫化石が産する. [メタガブロ]見出されたメタガブロの転石の内,最大のものは長径約25 cmの角礫である.メタガブロ中の苦鉄質鉱物として,角閃石(最大約8 mm)や輝石(最大約3 mm)が認められる.これらの転石の位置は秩父累帯北帯と中帯の境界付近にあたり,その境界の北側(下流側)には秩父累帯北帯刈場坂ユニットの弱変成メランジュが,南側(上流)には中帯花桐ユニットのチャートや砂岩が分布する.両ユニットの境界は露頭不良ため不明であるが,これまでの研究を総合すると,メタガブロは北帯の刈場坂ユニットと中帯の花桐ユニットの境界断層沿いに構造的に挟まれたブロックであった可能性がある. [考察]横瀬町芦ヶ久保地域の秩父累帯は,紀伊半島東側の秩父累帯と同様に,岩相・変成相・地質構造の相違に基づいて,北帯と中帯に区分されることが判明した.また,新たに見いだされたメタガブロの転石は,黒瀬川帯を特徴づける岩石である可能性がある.これらのことから,横瀬町芦ヶ久保地域の秩父累帯にも黒瀬川帯が存在し,横瀬町の黒瀬川帯の南北幅が,紀伊半島東部と同様に,秩父累帯北帯(主部の弱変成岩が分布する地帯)の南側まで広がる可能性がある.これらのことは,黒瀬川トランスフォーム断層帯説(Kato and Saka,2006)を補強する. [文献]Hisada and Hara, 1996, Prof. H. Igo Commem., 55-62. Kato and Saka,2006,Geosci Jour.,10,275-289.加藤,1995,211-227.地質雑,加藤,2016,駒澤地理,52,81-93.加藤,2017a, 駒澤地理,53, 73-85.加藤,2017b,日本地質学会第124年会演旨,203.加藤,2019,日本地質学会第126年会演旨,411.松岡ほか,1998,地質雑,104,634-65.大藤ほか,2003,日本地質学会第110年会演旨,134.小澤・小林,1985,兵庫教育大紀要,6,103-141.指田,1992,地学雑,101,573-593.島村ほか,2003,地質雑,109,116-132.

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