日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T15-P-10
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T15.地域地質・層序学:現在と展望
四国西部,北部秩父帯の大規模逆転層をナップとして覆う水なし山ユニット
*辻 智大
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抄録

西南日本外帯に分布する秩父帯はペルム紀・ジュラ紀付加体によって構成され,北側に三波川変成岩類と接していることから,三波川変成岩類の上昇に伴う前弧域の変形が記録されていると期待される.特に,四国西部の北部秩父帯には大規模逆転構造が記載されており(辻・榊原,2009),その地質構造およびその背景となる造構作用を理解することは,この時期の造山運動のプロセスを理解すことに繋がる.四国西部の北部秩父帯の大局的な地質構造については,辻(2019)によって,南フェルゲンツの転倒褶曲・スラスト群をなすと報告された.しかしながら,スラストおよびその周辺の地質構造について十分な検討がなされていなかった.そこで,本研究では,大規模に逆転した付加体とその構造的上位に累重する水なし山ユニットの関係を明らかにする目的で,愛媛県久万高原町茗荷谷川流域において地質学的研究を実施した. 【地質概説・ユニット区分】 本地域は北部秩父帯の北半部に位置する弱変成したジュラ紀付加体であり,準片岩類および泥質メランジュによって構成される.本地域には大規模に逆転し南上位を向く2つのユニットが分布し,それらは北から,小田深山ユニット,中久保ユニットに区分される.それらを覆うように水なし山ユニットが上位にナップとして分布する. 小田深山ユニット:黒川上流の小田深山地域に分布する,主に多色チャート,石灰岩などの遠洋性堆積岩類および塩基性岩類を起源とする準片岩類によって構成され,陸源性砕屑岩に乏しい.小田深山ユニットの北部ほど延性変形が顕著である. 中久保ユニット:黒川流域の管行,中久保周辺に分布する,砂岩,チャート,緑色岩,泥質メランジュを主体とする.本ユニット中の岩石は準片岩化していない. 水なし山ユニット:水なし山周辺に分布する,砕屑岩,凝灰岩,チャート,塩基性岩類を起源とする準片岩によって構成される.砕屑岩にはチャート角礫岩が挟在する.チャート角礫岩中に発達する級化構造に基づくと,上下正常である. 【地質構造】 小田深山ユニットの準片岩類は高角度で北に傾斜し,遠洋性堆積岩類の堆積構造に基づくと,逆転した南上位が卓越する.南側の中久保ユニットとは東西走向北傾斜の平川断層で接する.中久保ユニットは,陸源性砕屑岩類の堆積構造等に基づくと逆転しており南ないし北上位を向くが,全体的には南上位が卓越する(辻・榊原,2009).これらの逆転した地層を覆うように,水なし山ユニットがナップとして上位に分布する.水なし山の東斜面には,水なし山ユニットの下位から,小田深山ユニットのチャートおよび石灰岩類が地窓状に露出している.小田深山ユニットは高角度であり,上位の水なし山ユニットは低角度であること,両ユニットの岩相が異なることから,ユニット境界を明瞭に認識できる.このユニット境界は水なし山の西斜面および東から南斜面に露出する.水なし山の南東斜面に,このユニット境界の断層破砕帯が露出する.本断層破砕帯は低角度であり,下位に小田深山ユニットの灰色チャート,上位に水なし山ユニットの砂岩泥岩の露頭が存在する.断層破砕帯は幅50 cm程度であり,断層角礫および断層ガウジによって構成され,Y-P複合面構造が発達する.Y面は北東-南西もしくは南北走向,21~27°北西ないし西傾斜である.Y面とP面との関係から,top-to-the-southの剪断センスが認められる. 水なし山ユニットは茗荷谷川上流の茗荷上地域にて低角度東傾斜が卓越するが,南側の茗荷下地域にて中角度南傾斜となる.この劈開面の構造および岩相分布から,茗荷谷地域に概ね東西に軸面を持つ背斜褶曲が推定される.水なし山ユニットと中久保ユニットとの関係に関しては不明な点が多い. 【考察】 本地域の水なし山ユニットのナップ基底断層は,本地域より東側に分布する名野川衝上断層(村田・前川,2007)に対比される可能性がある.本断層は北部秩父帯を二分する大断層である.本地域の最上位に上下正常の水なし山ユニットがナップとして分布し,その下位に逆転南上位を示す地層の境界には,転倒背斜褶曲が推定される.その転倒背斜褶曲はナップ基底断層によって切断されているため,現在は観察できないと考えられる.この構造を形成するプロセスとして南フェルゲンツの構造運動が想定される.その原因として北部からの三波川結晶片岩類の上昇が考えられる. 【引用文献】 辻 智大・榊原正幸(2009)地質学雑誌,115,1-16. 辻 智大(2019)四国西部,北部秩父帯の大規模転倒褶曲-弱変成付加体の構造を支配する造構作用-.日本地質学会第126回大会講演要旨. 村田・前川(2007)徳島大学総合科学部自然科学研究,21,65-75.

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