日本地質学会学術大会講演要旨
Online ISSN : 2187-6665
Print ISSN : 1348-3935
ISSN-L : 1348-3935
第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T5-O-13
会議情報

T5.テクトニクス
秋田地域新第三系の弾性波速度異方性:地層の圧密と広域応力場の影響
*西川 治仁井田 拓己齊藤 温人今井 忠男
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

秋田地域の新第三紀堆積盆には,中期中新世後期から更新世までの一連の海成層が累重している.その厚さは数千mにおよび,深部に埋没した堆積物は強く圧密されている.また,東北日本弧において鮮新世以降に強まった東西水平圧縮によって,これらの地層には逆断層や褶曲構造が発達している.秋田地域の堆積岩類が経験したこのような履歴の記憶は,岩石に刻まれ,その組織や物性に現れているはずである. 弾性波速度は岩盤物性の評価や地下構造の可視化に用いられており,堆積岩も多数測定されている.しかしながら,堆積時の層理面の発達や続成過程における圧密,造構応力による変形の影響が弾性波速度にどのように反映されるのかについて十分な検討は行われていない.本研究では,秋田県太平山南麓地域,北由利衝上断層上盤の褶曲帯,鳥田目断層下盤の強変形帯に分布する新第三系(権現山層,女川層,船川層,天徳寺層)の泥質岩試料を採取し,弾性波(P波)速度,密度および孔隙率を測定し,堆積,圧密および変形の影響を検討した.P波測定では,試料をZ軸 (層理面に垂直),X軸(走向方向), Y軸(X軸およびZ軸に垂直)を3辺とする一辺5cm~3cmのキューブ状に成型し,3方向の速度を測定した. P波速度の測定には,秋田大学岩盤研究室の超音波速度測定装置 ソニックビューア (応用地質)を用いた. 各層のP波の平均速度は,権現山層で3.35km/sec,女川層で2.77km/sec,船川層で3.14km/sec,天徳寺層で2.61 km/secである. P波速度は,試料の密度とは正の相関関係を示し,有効孔隙率とは負の相関関係を示した.これは埋没過程での割れ目や孔隙の閉塞によるものだと考えられる.3方向の弾性波速度を比較すると,測定値にばらつきがあるものの,速度平均では,天徳寺層を除く下位の3つの地層のサンプルで,Z方向の弾性波速度がほかの2方向にくらべて明らかに小さい値を示した.Z方向の速度が最小になる理由の解明は今後の課題である.秋田地域の新第三系泥質岩は,圧密作用によって堆積時の50%から25%程度の厚さにまでZ方向に短縮している(西川ほか, 2017 [日本地質学会第124年学術大会講演要旨])また,堆積時に形成された層理面や圧密による粒子配向がZ軸に垂直に形成されている.これらが弾性波速度にどのような影響を与えているかについて,さらに検討する必要がある.一方,X軸方向とY軸方向の速度を比較すると, Y軸方向の速度がX軸方向よりも速い試料が認められた.北由利地区および鳥田目地区の多くの試料において,X軸はN-Sに近い方位を向くことから,東西圧縮の広域応力の影響が示唆されるが,Z軸に垂直な面内での異方性は一般に小さい. 先行研究(長田・Adikaram, 2012 [ 第41回岩盤力学に関するシンポジウム講演集]など)では,堆積岩試料の含水量の違いによって弾性波速度が変化し,飽和度の減少とともに低下する傾向がZ方向において顕著であるとの報告がある.本研究では自然状態の試料を測定したが,今後,飽和度を変えたP波速度測定を行い,含水量の効果についても明らかにしていきたい.

著者関連情報
© 2023 日本地質学会
前の記事 次の記事
feedback
Top