日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T6-O-11
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T6.堆積地質学の最新研究
(エントリー)北海道日高山脈に分布する周氷河性斜面堆積物の有機分子組成の特徴
*福地 亮介沢田 健小安 浩理石丸 聡
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抄録

[はじめに] 周氷河斜面とは寒冷環境に特異的な周氷河作用である凍結融解作用によって形成された滑らかな緩斜面である。斜面下の堆積物は周氷河性斜面堆積物と呼ばれ、一般的に角礫を主体とするが、淘汰が悪く、層構造に不明な点が多い(小泉, 1992)。一方、堆積物中にはシルト主体の層も存在しており、近年斜面災害との関連性が指摘されている(石丸, 2017)。北海道には最終氷期に形成されたと考えられる‘化石’周氷河斜面が広く分布していて、その斜面に数mから数10m規模の厚さの堆積物が埋積していることがわかっている(小野・平川, 1975; 小安ほか, 2022)。本講演では、日勝峠周辺の花崗閃緑岩地域で掘削されたボーリングコアについてバイオマーカー分析を行い、予察的ではあるが、周氷河性斜面堆積物における有機物組成の特徴について論じる。 [試料と方法] 本研究では北海道立総合研究機構によって、北海道日勝峠で掘削された高品質ボーリングコアNS-BR-01、03を用いた。コア掘削地点の基盤岩は花崗閃緑岩である。本コアでは層相の区分や礫形状、配列が記載されている(小安ほか, 2022)。淘汰の悪い礫まじりのシルト~砂層の上位にTa-dテフラ(9ka)、黒土が載ることから、この堆積物は最終氷期の周氷河環境において形成され、9ka以降に安定期に入ったと考えられる(小野・平川, 1975)。NS-BR-01コアは層厚6mであり、下位から礫まじりのシルト~砂層、Ta-dテフラ層、黒土層、砂層で構成される。NS-BR-03コアは層厚5mであり、基盤岩上の堆積物は、下位から礫まじりのシルト~砂層、Ta-dテフラ層、黒土層で構成され、深度2.5mで風化基盤岩に達する。分析試料は礫が少ないシルト~細粒砂層から厚さ3~4cmで採取し、特にNS-BR-03コアについてはTa-dテフラ層直下の砂質シルト層と風化基盤岩直上のシルト質砂層を採取した。採取した試料は凍結乾燥後に細かく砕いて粉末にし、粉末試料10gから抽出した溶媒をカラムで分け、それぞれの画分ごとにGC-MSを用いてバイオマーカー分析を行った。 [結果と考察]堆積物試料からは長鎖n-アルカンが検出された。長鎖n-アルカンは主に植物の葉のワックス成分に由来し、堆積物中に広く存在する。風化基盤岩直上のシルト質砂層を除いて、総n-アルカン濃度は0.1~0.4μg/gであった。基盤岩直上の砂層からはn-アルカンは検出されず、他の層準で卓越した脂肪酸やアルカノールもほとんど検出されなかった。おそらく基盤岩が破砕して形成された層であり、有機物がほとんど含まれていなかったのだと考えられる。n-アルカンにおいて、木本植物は炭素数27(C27)とC29アルカンを、草本植物はC31以上の奇数炭素数のn-アルカンをより多く合成する傾向があるため、その平均炭素数(鎖長)を示した指標(ACL)が森林的か草原的かといった古植生復元のために使われる。NS-BR-01コアにおいてACLは下位ではより草原的な値を示し、上位で森林的な値を示した。また、堆積物試料からは被子植物由来のトリテルペノイドが検出されており、おそらく針葉樹というよりも被子植物の草本が卓越していたのだと考えられる。周氷河性斜面堆積物においても周辺地域の古植生の変化が記録されており、今後より詳細な分析を行うことで温暖期、寒冷期の周期性が見られる可能性がある。 [文献] 石丸(2017) 防災科学技術研究所研究資料, 411, 17-24. 小野・平川(1975) 地理学評論, 48, 1-26. 小泉(1992) 地理学評論 Ser. A, 65, 132-142. 小安ほか(2022) 地質学会第129年学術大会要旨

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© 2023 日本地質学会
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