主催: 一般社団法人日本地質学会
会議名: 第131年学術大会(2024山形)
回次: 131
開催地: 山形大学
開催日: 2024/09/08 - 2024/09/10
北部・中部ベトナムは,南中国ブロックとアンナミアブロックからなり,両ブロックには化石を多産する上部デボン系の炭酸塩堆積物が分布している.北部ベトナムハーザン省の南中国ブロックには,上部デボン系~石炭系のトックタット層が露出し,中部ベトナムクアンビン省のアンナミアブロックには上部デボン系のソムニャー層が分布しており,両層はデボン紀後期の大量絶滅で知られているファメニアン・フラニアン境界(F-F境界)を挟んでいる.この研究の主な調査地域は,Komatsu et al. (2018)で報告したシーファイ峠(Si Phai Pass)地域と現在調査を進めているシャウホー(Seo Ho)地域のトックタット層,松尾ほか(2020)で報告した模式地のソムニャー層である.
本研究ではこれらの地域で地質調査と室内での微化石抽出・分析作業を行い,コノドント生層序と安定炭素同位体比層序,堆積環境などを明らかにした上で, F-F境界を特定し,5大大量絶滅の一つとして知られている上部・下部ケルワッサー事変層を確認した.
これらの3つの調査地域では,保存状態の良いコノドントが多産し,シーファイ峠やシャウホー地域では,5属26種ほどのコノドントを同定し,ソムニャー地域では4属30種のコノドントを確認した.これらのコノドントは国際的に用いられているPa. rhenana帯,Pa. linguiformis帯(フラニアン階最上部),Pa. triangularis帯(ファメニアン階最下部)に特徴的な種からなり,シャウホー地域ではPa. rhenana帯を下部のPa. rhenana nasuta亜帯,上部のPa. rhenana rhenana亜帯の2つに,Pa. triangularis帯を下部のPa. triangularis亜帯と中部のPa. delicatula platys亜帯,上部のPa. minuta minuta亜帯の3つに区分する事ができた.また,シャウホー地域では,Pa. triangularis帯の上位にPa. crepida帯を確認することができた.
ケルワッサー事変を含む層準では,安定炭素同位体比の顕著な正のシフトが報告されており,下部ケルワッサー事変(LKW)はPa. rhenana帯の正のシフトと一致し,上部ケルワッサー事変(UKW)はフラニアン・ファメニアン境界,すなわちPa. linguiformis帯とPa. triangularis帯の境界で生じた正のシフトと一致する.これらの正のシフトは,シーファイ峠地域のトックタット層と模式地のソムニャー層で確認されていたが,シャウホー地域でも確認することができた.
ケルワッサー事変に伴う黒色頁岩については,シーファイ峠地域のトックタット層やソムニャー層では確認できなかったが,シャウホー地域では良く発達しており,LKWは黒色頁岩の中にあり,UKWは黒色頁岩からその直上の石灰岩層に挟まれている.これらの黒色頁岩は,有機物に富み,平行葉理が発達している.なお,シャウホー地域のPa. rhenana帯とこれよりも下位の層準では複数の黒色頁岩層が発達しており,ファルシオバリス事変などのイベントが記録されている可能性もある.
〔引用文献〕 Komatsu et al. (2018) Island Arc, e12281. 松尾ほか(2020) 堆積学研究,vol. 78, p. 55-75.