日本地質学会学術大会講演要旨
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第131年学術大会(2024山形)
セッションID: T2-P-5
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T2.南極研究の最前線
東南極リュツォ・ホルム湾の葉上性貝形虫類
*中里 政貴岩谷 北斗佐々木 聡史徳田 悠希石輪 健樹板木 拓也菅沼 悠介
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抄録

極域に繁茂する海藻類は、海氷や棚氷による太陽光の遮断やアンカーアイスによる海底面の擾乱作用の影響を強く受ける。つまり、海藻の表面に付着して生息する葉上性生物の化石は、過去の海氷の発達や棚氷の拡大・縮小の指標になり得る。貝形虫は、二枚貝様の背甲をもつ微小な甲殻類であり、葉上種、砂底種、泥底種、など多様な底質環境に適応し分化している。また,石灰質の背甲を持つ貝形虫は、堆積物中に化石として保存されやすく、理想的な古環境指標となる。本研究は、第61次南極地域観測隊により、リュツォ・ホルム湾の浅海域から採取された海藻試料、陸棚および深海域から採取された堆積物コア試料(板木ほか, 印刷中)から得られた貝形虫(化石)を用いて、海氷の発達や棚氷の拡大・縮小を推定しうる新たな古環境指標を見出すことを目的とする。結果として、8試料の海藻試料から13属19種285個体 の貝形虫が産出し、Cytherois avalisParadoxostoma属、Xestoleberis属などの葉上種やLoxoreticulatum fallaxのような浅海種が認められた。これまでにもリュツォ・ホルム湾の表層堆積物試料から葉上性貝形虫種の報告はあったが(例えば、Sasaki et al., 2023)、本研究によりそれらの葉上種が同湾の海藻上に実際に生息していることがはじめて明らかになった。また、L. fallaxは、リュツォ・ホルム湾全域で産出することが知られるため(Yasuhara et al., 2007)、広域的に利用できる海氷の発達や棚氷の拡大縮小の指標となるかもしれない。さらに、葉上種の貝形虫化石が、深海域、陸棚域ともに堆積物コア試料の上部層準のみから産出した。したがって、調査海域の海氷や棚氷の影響が現在にむけて小さくなった可能性が示唆された。

【引用文献】板木ほか,印刷中,南極資料. Sasaki et al., 2023, Paleontological Research, 27, 211–230. Yasuhara et al., 2007, Micropaleontology, 53, 469–496.

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