日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
虚弱高齢者における口唇閉鎖力と日常生活機能ならびに認知機能との関連性
三浦 宏子苅安 誠角 保徳山崎 きよ子
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2008 年 45 巻 5 号 p. 520-525

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抄録

目的:口唇閉鎖は摂食·嚥下機能のみならず口腔調音と関係するが,虚弱高齢者の口唇閉鎖力の低下と心身の健康状態の関連について解析した研究は少ない.本研究では虚弱高齢者における口唇閉鎖力が日常生活機能(ADL)や認知機能とどのような関連性を有するかについて検証した.方法:虚弱高齢者92名(男性28名,女性64名)を被験者とし,口唇力計測器リップデカムを用いて口唇閉鎖力を測定した.併せて被験者の基本属性,ADL20スケールを用いたADL評価,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用いた認知機能スクリーニングを行うとともに,摂食·嚥下障害関連症状の発現状況,流涎の有無について調べた.結果:口唇閉鎖力とADL20総スコアならびにADL20下位スコアとの間に,それぞれ有意な相関関係が認められた.口唇閉鎖力とHDS-Rスコア値との間にも有意な相関関係が認められた.一方,口唇閉鎖力と有意な関連性を示した摂食·嚥下障害関連症状は,「体重の低下」,「発熱」,「飲み込みづらさ」,「食べこぼし」,「胸部つまり感」であった.また,流涎のある者は無い者と比較して有意に口唇閉鎖力が高かった.結論:虚弱高齢者において,口唇閉鎖力の低下に随伴してADLならびに認知機能の低下が有意に低下していた.これらの知見より,口唇閉鎖力の低下は口腔機能の低下にとどまらず,より包括的な生活機能の低下と関連性を有することが示唆された.

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© 2008 一般社団法人 日本老年医学会
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