日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
高齢者死亡症例の死因分析
中島 直也饗庭 三代治福田 友紀子朴 宗晋礒沼 弘津田 裕士林田 康男
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 46 巻 1 号 p. 71-78

詳細
抄録

目的:順天堂東京江東高齢者医療センター(以下,「当院」という.)は,高齢者を中心に医療を提供している320床の病床を有する保険医療機関であり,全病床の37.5%(120床)は認知症の治療を専門とする精神病棟である.当院のような病床配分の病院における入院死亡症例の実態が,どのようになっているかを明らかにすることを目的とした.方法:平成14年6月1日(開院)から平成18年11月30日までに,当院に入院して死亡した全症例を対象に,年齢分布,死因などについて検討し,全国集計との比較も行った.結果:調査期間中の65歳以上の死亡症例は,815例(男461例·56.6%,女354例·43.4%)で,全死亡症例の93.5%を占めていた.当院における死因順位は,第一位が悪性新生物で,ついで肺炎,心疾患,脳血管疾患,腎不全の順であった.主傷病死(入院の原因となった傷病での死亡)では,悪性新生物が288例(61.3%)と最も多く,肺炎63例,脳血管疾患25例,心疾患23例,腎不全15例の順であった.副傷病死(入院の原因となった傷病以外での死亡)では,肺炎が95例(27.5%)と最も多く,心疾患48例,悪性新生物31例,敗血症27例,腎不全17例の順であった.副傷病死の入院原因として,第二位にアルツハイマー型認知症47例(13.6%)が位置していた.一般病棟における死因は,主傷病死では悪性新生物が半数以上(62.9%)を占めて第1位であり,肺炎,心疾患の順で,副傷病死では,肺炎(25.3%)が第1位で,心疾患(14.5%),悪性新生物(11.2%)と続いていた.一方,精神病棟における死因は,主傷病死では悪性新生物が第1位(39.4%)で,アルツハイマー型認知症が18.2%で第2位となり,続いて肺炎,腎不全,脳血管疾患の順であった.副傷病死では,肺炎(35.5%),心疾患(11.9%),敗血症(9.2%)の順となっていた.病棟別に主傷病死と副傷病死を比較すると,一般病棟より精神病棟において副傷病死が有意(P<0.0000)に多かった.また,入院期間を比較すると,主傷病死·副傷病死共に有意(P<0.0001)に精神病棟において長期化していた.さらに,全体の入院期間は,主傷病死に比して副傷病死において有意(P<0.0003)に長期化していた.結論:当院における入院症例の死因は,悪性新生物および肺炎が多いことにより,脳血管疾患および心疾患の順位が下位になっていることを除くと,全国集計とほぼ同様の順位であった.このことは,日本における病院での死亡症例が全死亡症例の80%以上を占めていることに起因すると考えられた.また,当院が所属する二次保健医療圏内の医療機関および介護施設の配置により,多少その入院対応症例に偏りがあるものの,死因から見る限り,高齢者医療において高齢者の罹患する傷病に対して幅広く対応していると考えられた.

著者関連情報
© 2009 一般社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top