日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
第51回日本老年医学会学術集会記録〈シンポジウムII:地域医療は高齢者医療:問題点と対策〉
3.医師不足·医療危機·医療崩壊からの地域医療の再生
伊藤 恒敏
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 46 巻 6 号 p. 503-507

詳細
抄録

きっかけ:2002∼03年に「医師名義貸し事件」が北海道に端を発し,東北地方,全国へと広がった.研究助成金問題も起きた.東北大では不祥事件を契機に医療が崩壊している地域·医療圏に医療システム構築の提言をし,大学も自らの責任を社会に対し明確にした.「地域医療教育開発センター」と「地域医療システム学(宮城県)寄附講座」が時限で設置され,医療政策,地域医療構築,についての調査,研究が行われた.調査·研究:日本は極端な医師不足である.人口当たり医師数はOECD加盟国中下から4番目,病床当たり医師数も最下位.日本には英米のナーシングホーム(日本の急性期病院並み)がなく,それらの病床がすべて病院病床となっている.医学部教員数も日本は欧米の3分の1.1990年から病院報告·医療施設調査による(届出)医師数が,医師調査を4万人も上回っている.医師の労働時間も平均で「週60時間を優に超える常態」である.結果·結論:ここまで崩壊した地域医療の解決策は取り敢えず,3項目に集約される.(1)不足する医師を増やす.(2)医師不足の医療圏にマグネットホスピタルを設置する.(3)包括的医師育成機構を都道府県単位で確立する.現状での必要医師数を独自に計算すると現状で45万人となる.医学部定員を2倍にしても20年もかかる.マグネットホスピタルとは400∼500床規模の若い医師を引きつける病院で,医師のための教育環境の整った三次救急にも対応する病院のことである.医師確保と医療の質維持のため人口20万人規模で一つ,設置が望ましい.もはや市町村に丸投げし非効率な病院設置は止めるべきだ.医師配置と長期的医師育成の視点から,大学と病院群と都道府県などが一体となって包括的医師育成機構を確立し,医師の異動を保証し,マグネットホスピタルばかりではなく,周辺の中小規模の病院への医師配置も考えるべきだ.

著者関連情報
© 2009 一般社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top