目的:30年以上の当院通院歴を有する糖尿病患者を対象とし,糖尿病単純網膜症(SDR)発症に対する血糖変動と年齢の影響を検討する.
方法:1969∼1977年に当院を初診し,初診時に網膜症を認めず,2006年以降も経過観察し得た糖尿病患者84例(男58例,女26例)を対象とした.血糖値,HbA
1Cは来院日毎の全データを収集した.変動の指数として標準偏差(SD),変動係数(CV)および範囲(Range)を用いた.
結果:SDR発症率は空腹時血糖値(FPG)のSD≥37 mg/d
l(75%点)群が<37 mg/d
l群に比べ有意に上昇した(Logrank P<0.0001).FPGの平均値,低血糖の有無,年齢,糖尿病罹病期間,高血圧,糖尿病治療法で調整したハザード比(HR)は2.64(95%CI:1.26∼5.50)であった.さらに,HbA
1Cの平均値,HbA
1CのSD,FPGの平均値,FPGのSDはそれぞれ,年齢,性,糖尿病罹病期間,低血糖の有無を調整後,SDR発症の有意なリスク因子であった.多変量解析にてHbA
1Cの平均値とFPGのSDはSDR発症の独立した有意なリスク因子であった.また,初診年齢と糖尿病推定発症年齢はSDR発症リスクを減少させる有意な因子であり,SDR発症率は初診年齢≥42歳(50%点)群が<42歳群に比べ有意に低下した(Logrank P=0.0074).FPGの平均値,性,糖尿病罹病期間,高血圧,糖尿病治療法で調整したHRは0.53(0.30∼0.93)であった.≥42歳群は<42歳群に比べFPGの平均値,SDおよびCVが有意に低値であった.SDR発症年齢のピークは50歳代であり,それ以降,SDR発症者数は減少した.
結論:糖尿病患者におけるSDR発症リスクは,HbA
1CやFPGの平均値だけでなく,それらの変動が大きくなるほど上昇し,高齢になるほど低下した.また,初診年齢42歳以上群では42歳未満群と比べSDR発症が有意に抑制された.その要因として,42歳以上群ではFPGの平均値に加え,その変動が小さいこと,且つSDRの好発年齢を過ぎた症例が多く含まれることによる影響が示唆された.
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