日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
高齢者大腸癌患者における腹腔鏡補助下手術の検討
須藤 剛佐藤 敏彦
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2011 年 48 巻 6 号 p. 665-671

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抄録

目的:高齢者大腸癌に対する腹腔鏡下手術の安全性と有効性を検討した.方法:2000年~09年に当院にて術前深達度がMP~腫瘍径約2 cm程度のSS癌までと診断された,75歳以上の大腸癌手術症例270例を対象とし,臨床病理学的因子,手術関連因子,周術期経過,術前・後合併症につきretrospectiveに検討した.結果:腹腔鏡下手術(以下:LAC群)81例,開腹手術症例(以下:OC群)189例であった.年齢中央値や,BMI,PNI,組織型は差を認めなかった.LAC群はOC群と比較し,腫瘍径が小さいが,リンパ節転移例が多い傾向にあった.手術時間は中央値で215分と195分でLAC群は長い傾向にあったが,出血量は少なく,リンパ節の郭清度及び,郭清リンパ節個数も差を認めなかった.歩行開始は1日と1日,食事開始は3日と4日,排ガス日は2日と3日,排便日3日と5日は早く,術後在院日数も11日と15日でLAC群が短かった.術前合併症保有患者は各々80.2%と81.1%で差を認めていなかったが,術後合併症は6.7%と12.2%でLAC群が少なかった.主に術後せん妄や,呼吸器疾患が多く,縫合不全や術死などは認めなかった.術後1,3,7日のWBC・CRP値は中央値でWBCは術後1,3日目,CRPは術後3日目にLAC群が低値であった.結論:我々の検討では高齢者に対する腹腔鏡下大腸切除術は早期癌症例が多い傾向にあったが,術後経過も比較的良好であり,手術も安全に施行されていた.外科手術の侵襲として創長の程度やサイトカインなどの問題が術後の回復に影響する要因の一つと考えられ,それらを軽減する腹腔鏡下手術は高齢者の大腸癌手術においても術後経過に良好な影響を与えると考えられた.更に在院日数の減少や,早期の社会復帰につながることから,LAC群の耐術能や進行度を考慮することで高齢者にも安全に施行可能であり,今後更に大腸癌手術の適応の拡大につながると考えられた.

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© 2011 一般社団法人 日本老年医学会
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