日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
全国高齢難聴者数推計と10年後の年齢別難聴発症率―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)より
内田 育恵杉浦 彩子中島 務安藤 富士子下方 浩史
著者情報
ジャーナル フリー

2012 年 49 巻 2 号 p. 222-227

詳細
抄録

目的:我が国における高齢難聴者の現況を推計することを目的として,「国立長寿医療研究センター―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」データを検討した.方法:NILS-LSA第6次調査(2008~2010年実施)より男性1,118名,女性1,076名の計2,194名を対象として,地域住民の粗率に近似すると考えられる5歳階級別難聴有病率を算出した(算定A).また,聴力に有害な作用をもたらす耳疾患と騒音職場就労を除外した算出も行った(算定B).総務省発表人口推計を用いて全国難聴有病者数を推計した.次に第1次調査(1997~2000年実施)時点で,除外項目と難聴定義に該当せず,かつ第6次調査にも参加した男性212名,女性253名の計465名を対象として,10年後の難聴発症率を解析した.結果:難聴有病率は65歳以上で急増していた.算定Aでは,男性の65~69歳,70~74歳,75~79歳,80歳以上の年齢群順に43.7%,51.1%,71.4%,84.3%で,女性では27.7%,41.8%,67.3%,73.3%といずれも高い有病率を示した.算定Bでは,同様の年齢群順に男性で37.9%,51.4%,64.3%,86.8%で,女性では26.5%,35.6%,61.4%,72.6%であった.全国の65歳以上の高齢難聴者の数は,算定Aでは1,655万3千人,算定Bでも1,569万9千人に上った.10年後の難聴発症率は,調査開始時年齢60~64歳群では32.5%,70~74歳群では62.5%と,年齢上昇に伴い高くなったが,依然聴力を良好に維持する高齢者が存在した.結論:高齢者の難聴有病率は高く,全国難聴有病者数推計から,加齢性難聴が日本の国民的課題であることが再確認された.また年を経ても聴力を良好に維持することが可能であると示唆された.

著者関連情報
© 2012 一般社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top