日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
高照度光照射が認知機能の低下を伴う高齢者の行動・心理症状と介護者負担へ及ぼす影響
緑川 亨小松 泰喜三谷 健東郷 史治
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2014 年 51 巻 2 号 p. 184-190

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抄録

目的:介護施設に入所する認知機能低下者に対して発光ダイオード(LED)を用いて光を照射することによって,睡眠関連症状を含む行動・心理症状(BPSD)および介護者負担が軽減するかどうかを検討することを目的とした.方法:対象は介護老人保健施設に入所する認知機能低下者8名(男性4名,女性4名,平均年齢79.9±9.1歳)で,平均Mini-Mental State Examination(MMSE)スコアは9.8±4.6点であった.LEDによる光照射は9:00~9:30に眼前照度2,000 luxで実施した.その間,対象者は折り紙や塗り絵などの作業課題を遂行していた.照射する光の色温度は12,000 K(青空色)または2,400 K(夕暮れ色)とし,それぞれ連続6日間(月曜日から土曜日)行った.6日間の連続照射週とその前後1週間の計3週間を1セッションとして4名は12,000 K,2,400 Kの順序で,残りの4名は2,400 K,12,000 Kの順序で計2セッションの調査を実施した.なお,各セッションの間は4週間以上とした.全般的認知機能についてはMMSE,焦燥性興奮についてはコーエン・マンスフィールドagitation評価表(CMAI),精神機能と介護者負担については日本語版Neuropsychiatric Inventory施設版(NPI-NH),担当介護士の介護負担度については日本語版Zarit介護負担尺度短縮版(J-ZBI)を用いて各週の最終日に調査した.結果:12,000 Kでは,NPI-NHの重症度スコア,職業的負担度スコア,合計スコア,CMAIの非攻撃的行動スコアが照射前週と比較して照射週または照射後週に有意に(P<0.05)減少した.また,各下位項目については,NPI-NHの「睡眠」スコアおよび「無関心」スコアが照射後週に照射前週と比較して有意に(P<0.05)減少した.一方,2,400 Kではいずれの評価指標においても有意な変化は認められなかった.また,MMSEスコアとJ-ZBIスコアについては,どちらの色温度でも有意な変化は認められなかった.結論:施設入所中の認知機能低下者の睡眠関連症状を含むBPSD,またその介護者の負担は光環境と関連し,これらは認知機能低下者が作業活動をする間に短波長成分を多く含む照明光の照度を増大させることでも改善しうることが示唆された.

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© 2014 一般社団法人 日本老年医学会
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