日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
癌性心膜炎による心タンポナーデ発症後,シスプラチン,ペメトレキセド併用化学療法により改善した肺腺癌の1例
吉田 和史寺本 信嗣
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2015 年 52 巻 4 号 p. 421-424

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抄録

肺癌は高齢者に多く,癌性心膜炎,心タンポナーデを合併する症例の予後は極めて不良である.近年,心嚢穿刺ドレナージとともに外科的心膜開窓術を行うことで予後を改善することが示されたが,高齢者に対する適応については十分に評価されていない.今回,我々は,肺癌による癌性心膜炎による心タンポナーデ症例に心嚢穿刺ドレナージ後に,シスプラチン(CDDP),ペメトレキセド(PEM)併用化学療法を行い,外科的心膜開窓術などの外科的措置を行わずとも心膜播種が消失し,良好な予後を示した症例を経験したので,考察を加え報告する.症例は68歳男性.非小細胞肺癌に対して本人の強い希望を考慮して上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;EGFR)阻害薬(EGFR-TKI)の一次治療を開始したが増悪し,69歳時に癌性心膜炎・心タンポナーデを発症した.心嚢穿刺ドレナージ後に細胞診の遺伝子検査からEGFR遺伝子変異陰性が判明し,二次治療のCDDPとPEM併用化学療法を施行した.6コース終了後のFDG-PET検査では,心膜播種は消失しており,その後も心嚢液の再貯留を認めていない.心タンポナーデ発症からパフォーマンスステータス(Performance Status:PS)1を維持したまま13カ月以上経過し,70歳を迎えた.癌性心膜炎により心タンポナーデを発症した患者の予後は不良である.救命のために心嚢穿刺ドレナージが必須であるが,半数に心嚢液が再貯留することが報告されている.しかし,本例のようにPEMを含む化学療法によって,肺腺癌の病勢コントロール可能な症例があるため,高齢者肺腺癌による心タンポナーデ症例において,外科的心膜開窓術を行えない場合に,高齢者といえども一度は標準的な化学療法を行うことに意義があると考えられる.

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© 2015 一般社団法人 日本老年医学会
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