日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
高齢糖尿病患者における血糖コントロールの現状
服部 孝二梅垣 宏行小宮 仁渡邊 一久葛谷 雅文
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2017 年 54 巻 4 号 p. 531-536

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抄録

目的:高齢糖尿病患者では重症低血糖を来しやすいという特徴があり,高齢者では重症低血糖が,死亡や心血管疾患,認知症などのリスクになりうると報告されている.こうした背景をもとに日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が設置され,2016年5月に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(以下コントロール目標と略す)が提言された.しかしながら高齢者糖尿病の血糖コントロールの実態に関する報告は少なく,我々はコントロール目標の提言がされる以前の高齢者糖尿病の血糖コントロールの状況について検討した.方法:2015年4月1日から2016年3月31日までに名古屋大学医学部附属病院老年内科に入院した65歳以上の患者を対象に,入院時に糖尿病治療薬を投与されている患者を抽出した.コントロール目標をもとに,入院時に投与されていた糖尿病治療薬と認知機能,BADL,IADLでカテゴリー分けを行い,HbA1cを調べた.結果:期間中の当科入院患者は426例であり,そのうち入院時に糖尿病治療薬を投与されており,HbA1c,従前の認知機能やADLに基づきコントロール目標カテゴリーに分類ができた症例は63例であった.性別は男性35例,年齢は83.1±5.9歳,HbA1cは7.6±1.5%であった.カテゴリー該当数はIが10例(15.9%),IIが12例(19.0%),IIIが41例(65.1%)であり,重症低血糖が危惧される薬剤(以下危惧薬と略す)はカテゴリーIが6例(60.0%),IIが8例(66.7%),IIIが22例(53.7%)で使用されていた.危惧薬使用群ではHbA1cが有意に高値であったが,その他の臨床的特徴とは有意な関連を認めなかった.危惧薬が使用されている場合,33.3%の症例でHbA1cが目標値未満であった.結論:危惧薬の使用と,カテゴリー分類や年齢との間には有意な関連を認めなかった.また危惧薬が使用されている場合,33.3%もの症例でHbA1cが目標値未満であった.高齢糖尿病患者では,特に危惧薬が使用されている際には低血糖に注意が必要であり,投薬内容の見直しなどの配慮が必要である.

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© 2017 一般社団法人 日本老年医学会
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