日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年医学の展望
代謝・神経機能障害と脳内インスリンシグナル
田口 明子
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2019 年 56 巻 3 号 p. 234-240

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抄録

インスリンシグナルは,各種臓器において,グルコースおよび脂質代謝,タンパク質合成,細胞増殖,老化調節など多様な作用を発揮する.これら種々の作用は,インスリン受容体およびインスリン様成長因子-1受容体アイソフォームの発現パターンの臓器特異的な違いや細胞内シグナル制御機構の複雑性により創出されると考えられる.シグナルの組織特異性や多様性の分子機序の一つとして,細胞内の様々なフィードバック機構が存在する一方で,総括的なシグナルの作用は臓器間相互作用により作出される.これらの制御機構の異常が,糖尿病を含む生活習慣病発症の一因となっていると考えられている.これまでに,インスリンの主たる標的組織として,末梢組織におけるインスリンシグナルの役割については精力的に解析が進められてきたが,中枢神経系のインスリンシグナルの機能については未だ不明な点を多く残している.本稿では,インスリンシグナルの主要調節因子であるインスリン受容体基質の脳での潜在的役割を中心に,脳インスリンシグナルの機能について最近の基礎研究結果を踏まえ概説する.

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© 2019 一般社団法人 日本老年医学会
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