日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
総説
超高齢社会日本におけるNAD生物学トランスレーショナル研究の意義と可能性
山口 慎太郎伊藤 裕吉野 純
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 57 巻 3 号 p. 213-223

詳細
抄録

老化・加齢は癌,糖尿病,アルツハイマー病などの種々の疾患の最も重要な危険因子として知られている.未曾有の超高齢社会にある我が国において,高齢者の健康寿命の延伸を図る新しい方法論の開発は喫緊の課題であると言える.Nicotinamide adenine dinucleotide NADは,約110年前に発見された古典的な補酵素として知られている.言わばルネッサンスを迎えた近年のNAD生物学研究の爆発的な展開により,ヒトを含めた哺乳動物において,老化に伴うNicotinamide phosphoribosyltransferase(NAMPT)を含むNAD生合成酵素活性の低下,あるいはCD38に代表されるNAD分解酵素活性の亢進により,全身性に臓器NAD量が減少することが明らかとなった.そして,遺伝子改変動物モデルを駆使した解析により,このNAD量の減少が老化に伴う機能障害,老化関連疾患の病態形成に重要な役割を果たすことが解明されつつある.さらに,数々の疾患モデル動物,老化マウスを用いた検討により,nicotinamide mononucleotide(NMN),nicotinamide riboside(NR)に代表されるNAD中間代謝産物が,健康増進作用,抗老化作用を発揮することも続々と報告されている.これらの結果は,NAD生物学研究の臨床応用,社会実装への機運を高め,現在,ヒトにおけるNAD中間代謝産物の安全性,効能を検討する臨床研究が世界的に展開されている.本総説では,目紛しいほどの進化を遂げるこれらNAD生物学研究トランスレーショナル研究の進捗を最新の知見を交え紹介し,超高齢社会日本におけるその研究の意義,可能性を考察したいと思う.

著者関連情報
© 2020 一般社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top