日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
総説
高齢がん患者の治療と支援
長島 文夫古瀬 純司
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2022 年 59 巻 1 号 p. 1-8

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抄録

わが国で,2017年に新たに診断されたがんは約98万例(男性56万例,女性42万例)であり,2019年にがんで死亡した人は約38万人(男性22万人,女性16万人)となっている.がんは1981年から死因の第一位で,最近では総死亡の約3割を占めている.我が国では,2006年にがん対策基本法が成立し,がん対策推進基本計画に基づいて,がん対策が進められ,死亡率の低下や5年相対生存率が向上するなど成果が得られている.高齢者人口の増加,認知症や介護需要の増加などの背景を踏まえ,第3期がん対策推進基本計画においては「高齢者のがんへの対応」についても目標が設定された.高齢者では,標準的治療の適応とならない場合も生じてくるが,診療ガイドラインにはその判断基準は明記されていない.高齢者のがん診療に有用なエビデンスを創出するため,現在,複数の臨床研究が進行中である.これまでに,日本臨床腫瘍学会と日本癌治療学会は日本老年医学会の協力を得て,2019年7月に「高齢者のがん薬物療法ガイドライン」を作成した.

政府は全世代型社会保障改革として,働き方の変化を中心に据えて,年金,医療,介護,社会保障全般にわたる改革を進めている.これにより,現役世代の負担上昇を抑えながら,全ての世代が安心して暮らせる社会保障制度を再構築しているところである.

高齢者の増加に伴い,高齢のがん患者は今後も増加すると考えられ,老年腫瘍学の教育,実地診療への展開,研究開発,多部門間の協力体制の構築が必要で,特に老年医学と腫瘍学領域において柔軟に対応することが求められている.

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© 2022 一般社団法人 日本老年医学会
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