2022 年 59 巻 2 号 p. 237-243
症例は1型糖尿病の82歳男性.インスリンデグルデク(Insulin degludec:IDeg)12単位(夕)とインスリングルリジン(Insulin glulisine:IGlu)毎食直前4単位を施注していた.認知機能低下あり,妻が食事やインスリン施注を介助していた.今回,糖尿病性ケトアシドーシスで入院となる.ケトアシドーシス離脱後,経口摂取が安定するまでは1日でブドウ糖150 g相当になるよう点滴栄養を追加し,IDeg 9単位の固定打ちとIGluのスライディングスケールを使用した.食事量安定後,点滴を終了し1,050 kcalの食事(そのうちブドウ糖は160 g相当)を開始し,同時にIDeg・IGluによる強化インスリン療法をIDeg 9単位(夕)とIGlu毎食前3単位で再開した.食事は全量摂取していたが早朝空腹時血糖が30~50 mg/dLと低値であった.IDegの減量や施注時刻の変更(夕→朝)を行い,また夕食前のIGluも中止したが夜間低血糖の改善を認めなかった.IDegをインスリングラルギンU300(Insulin glargine U300:Gla-300)に変更すると,3日後より夜間低血糖は消失した.慢性心不全と心室性期外収縮を併存しているため,切り替えの際にホルター心電図も同時に装着したところ,低血糖時は不整脈数が増加していた.
夜間低血糖のコントロールに難渋した本患者において,IDegからGla-300に切り替えることで低血糖が改善し,その原因を考察した.Gla-300と異なり,IDegは脂肪酸側鎖が付いているため,血液中でアルブミンと結合して緩徐に分散し作用する.インスリン治療により低血糖が生じると,遊離脂肪酸が増加することが報告されている.低血糖で増加した遊離脂肪酸が血液中でアルブミンと結合しているIDegと競合し,アルブミン非結合状態のIDegが増加し低血糖が助長され遷延した可能性があると考えた.認知機能の低下した高齢者におけるインスリン治療は介助者のサポートが大切で,同時に医療者が適宜指示の確認を行うことで低血糖の原因を探ることは重要であるが,持効型インスリンの作用機序が一因となる低血糖が隠れている可能性もあることを念頭に置くことは大切と考える.