日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老人腋窩温の統計値
入来 正躬小坂 光男村上 悳村田 成子
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1975 年 12 巻 3 号 p. 172-177

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抄録
65歳以上の男子943名, 女子1671名, 計2614名について腋窩温を測定した. 測定時刻は午後1時より4時の間, 測定時間は30分である. 同時に血圧, 身長, 体重を測定した. 被検者のうち, 独力で普通の日常生活の不可能なもの, 身体の異常を強く訴えるものを除き男子875名, 女子1595名, 計2470名について統計学的検討を行なった. この結果より結論づけることができるのは次の諸点である. 比較のために成人腋窩温についての田坂ら (1957)の報告を用いた.
1) 老人腋窩温分布は正規分布に近い分布を示し, その平均値は36.66℃, 標準偏差は0.42℃である.
老人腋窩温の平均値は成人腋窩温の平均値36.89℃に比し0.23℃低い.
老人腋窩温の標準偏差は, 成人腋窩温の標準偏差0.34℃より大きく, 老人腋窩温の個人によるバラツキが成人のに比し大きいことを示している.
2) 男子老人腋窩温は平均値36.55℃, 標準偏差0.41℃であるのに, 女子老人腋窩温は平均値36.72℃, 標準偏差0.42℃である. 男子老人腋窩温の平均値は女子のに比較して0.17℃低い. 成人の腋窩温では男子は女子より高いので, 老人と成人の男女差は逆の傾向を示す.
3) 老人腋窩温と最高血圧, 最低血圧, 平均血圧との相関関係は有意ではない. しかし, 老人腋窩温は体型により左右され, 身長, 体重, 比体重と逆の相関関係が成り立つ. 比体重の大きい, すなわち肥満型の人ほど腋窩温が低い.
なお本統計は, 独力で普通に生活している老人の日常生活にあらわれる時間的な一断面における腋窩温について述べたもので, 長期間臥床を保っているような条件の老人にこの数値をただちにあてはめることはできないかと考えられる.
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