日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
腎動脈系の加齢に関する研究
主として結合組織について
澤田 皓史
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1976 年 13 巻 5 号 p. 293-301

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抄録

腎の加齢現象については, これまで, 腎実質の一次性変化を重視する立場や, 腎血管の加齢を優先させる立場など諸説が存在するが, 腎動脈自体は, その構築上, 他の領域の動脈に比較して血流に対する抵抗が少なく, 粥状硬化の発生しにくい領域とされている. 本研究は, こうした部位的特異性をもつ腎動脈の加齢現象を, 検索したものである.
18~87歳の急死例 (男性) の腎を, 東京都監察医務院のご好意により集め, 腎硬化症以外の病的腎を除外してから, 肉眼的に正常とみなされる腎動脈を弓状動脈以下まで実体顕微鏡下に分離した. ついで, 近位から遠位に向い, 区域動脈と腎実質外の葉間動脈をA群, 腎実質内葉間動脈をB群, 弓状動脈および小葉間動脈をC群と3区分し, 結合組織の指標としてウロン酸 (酸性ムコ多糖)と, ハイドロキシプロリン (主としてコラゲン) を測定, 加齢との対応を検索した. また, これら2成分の比を算出, 加齢による変化を求めた.
腎動脈のウロン酸含量は, 近位部で最大であり, 遠位にかけ漸減したが, A, B, C群とも加齢により漸増し, 増加率もA>B>C群の順に大であった. しかし, 加齢との有意性は, A, B群にのみみとめられた. ハイドロキシプロリン含量は, A, C群はほぼ等しく, B群では少なかったが, 加齢による有意差はA, B群にのみみとめられ, ともに漸増した. C群には有意差がなく, また漸減の方向をしめした. ウロン酸/ハイドロキシプロリン比は, 近位部ほど大で, また3群とも加齢により増加した. 総合すると, 腎動脈で結合組織に加齢による有意の変化をみる部分は, A, B群であり, C群では有意でなかった. また, A, B群では両成分でA>B群であり, その比もA>B群であった. これらの成績は, 腎動脈の結合組織, とくに酸性ムコ多糖の濃度には, A群からB群へ漸減する勾配が存在し, 加齢とともに, この勾配が保持されたまま濃度の漸増することをしめしている. この変化が, 動脈系にみられる一般的持徴かどうかは, 今後検討を要する.

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