日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
肝硬変の線溶活性と血清脂質の異常と予後について
松尾 武文松永 公雄
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1976 年 13 巻 5 号 p. 302-307

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抄録

肝硬変44例を, 代償群, 腹水群, 食道静脈出血群の三群にわけて, 血液凝固・線溶と血清脂質について観察した. オイグロブリン溶解時間 (ELT) は腹水群で明らかに短縮し, 出血群では延長していた. フィブリノゲンは腹水群, 出血群で低下していた. 第VIII因子は三群ともに増加例が多く, 50%以下の低下例はなかった. FDPは三群間に有意差はなく, 10μg/ml以上の陽性出現率にも差異はなかった. とくに静脈瘤出血群でも, オイグロブリン溶解時間の異常値, フィブリノゲン量のより著明な低下, 第VIII因子の減少, FDPの増加といった血管内凝固を思わせる例はみられなかった. すなわち, 肝硬変それ自体でDICとまぎらわしい凝固線溶の異常はみられたが, 静脈瘤出血群では他の群よりも著しい凝固線溶の異常の存在は見い出せなかった.
次に肝硬変の予後を知る目的で, 死亡例と生存例に分けて比較した. 死亡例ではフィブリノゲンと中性脂肪が明らかに低下していた. しかしELT第VIII因子, FDP P他の血清脂質と予後の間に有意の関係はなかった. またフィブリノゲンと中性脂肪の血中濃度は平行して増減する関係にあった. そして両者が平行して低下する場合として, まず肝での生合成の障害が考えられた. このことから予後不良例では, 肝不全による合成障害のため, 両者の血中濃度が平行して低下したと推測できた.

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