抄録
老年者の出血, 手術に際し輸血により急激にヘマトクリットを上昇させた際, 一過性に急性心筋梗塞様心電図を示したが, 剖検上心筋梗塞の認められない7例を示した.
基礎疾患は消化器癌4例, 胃潰瘍2例, 偽膜性大腸炎1例であり, 心電図は異常Qと共にST上昇冠性Tと典型的心筋梗塞所見を示したが, その持続は2-7日と短かく輸血前の所見に回復した. ヘマトクリットは800乃至1800mlの輸血により28.9から47.9と上昇し, 血管内凝固症候群を5例に認めた. GOTは1例を除き正常範囲の上昇であった.
病理所見は新鮮例に壁在血栓から thebesius 静脈系の血栓とその周囲の限局性小壊死巣を認め, 陳旧例では血栓の吸収, 間質線維化, 心筋の軽度脱落と網状線維化等修復像を認めた. これ等臨床及び病理所見から本症候群に対し reversible myocardial infarction の概念を提唱し, その成因として血管内凝固症候群, ヘマトクリット上昇の関与を推定した.