抄録
本研究の目的は, 老年者における十二指腸潰瘍の胃粘膜形態の特徴と, 臨床的特徴を明らかにすることにある.
材料および方法: 60歳以上の連続剖検1,137例 (1968-1974) 中, 十二指腸潰瘍49例と, 無病変胃, 胃潰瘍, 胃ポリープの各群とを胃の形態および機能の面から比較検討した. さらに老年者十二指腸潰瘍切除10例を加えて発生誘因を主として調べた.
結果: 胃底腺・幽門腺の境界の状態を, 小弯上で完全な胃底腺領域を残しているもの (いわゆる通常型 Ordinary pattern) と, 完全な胃底腺が消失してしまったもの (いわゆる萎縮型 atrophic pattern) とにわけた. 無病変胃では, 通常型は32.7%であるのに対し, 十二指腸潰瘍では79.5%と通常型が圧倒的に多い. これに対し胃潰瘍では通常型28.8%であり, ポリープでは7%を占めるにすぎない. 胃液検査でも, この形態的特徴を反映した結果が得られた.
十二指腸潰瘍の発生誘因としては, 脳卒中, 重症感染, ショックなど stress ulcer とみなされるものや, 黄疸, 消尖鎮痛剤によるものが50%を占めた.
結論: 老年者における十二指腸潰瘍の発生には, 胃粘膜が通常型を示し胃底腺がよく保存されていることが必要条件である. この条件を満足したうえでさらに何らかの因子が加わって潰瘍の発生をみると考えられる.
老年者では, 発生誘因としていわゆる stres ulcer や薬剤によるものが高率を占めることが特徴である.