日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
ヒト動眼神経根の老年性病変
とくに有髄神経線維の嗜銀性肥大病変について
斉藤 光典朝長 正徳
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1977 年 14 巻 5 号 p. 411-417

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抄録
剖検61例 (25歳-96歳) の動眼神経根を検索し, 老年者の動眼神経根には, 有髄神経線維の嗜銀性肥大病変 argyrophilic swelling of myelinated nerve fiber が多くみられた. この嗜銀性肥大病変は, 銀染色にて, 一見軸索肥大のごとき形態を示し, 縦断切片では, 円状・楕円状・紡錘状を示し, 横断切片では, 円形・楕円形を示し, その直径 (長径) は5~10μのものと, 10~20μのものとがあった. 直径5~10μの嗜銀性肥大病変は, 加齢と相関関係を認めず, 悪性腫瘍 (癌) の例に多かった. 直径10~20μの嗜銀性肥大病変は, 加齢と相関関係を示し, とくに80歳代以上の高齢者に多く認められたが, 悪性腫瘍 (癌) との相関関係はなかった.
組織化学的に, この嗜銀性肥大病変は, PAS強陽性・luxol fast blue 弱陽性・sudan black B 弱陽性の染色性を示し, 脂質主体の異常物質の蓄積と考えられた.
電顕的に, この嗜銀性肥大病変は, 軸索と髄鞘の隙間, すなわち軸索周膜 axolemma に接する Schwann 細胞の胞体内 (Schwann 細胞の傍軸索胞体 adaxonal cytoplasm of Schwann cell 内であって, 内軸索間膜 inner mesaxon 内ではない) に, electrical dense bodies・lipids・lysosmes・vesicles 等が集積したものであり, 軸索肥大 axonal swelling はみられなかった. 電顕豫より, この嗜銀性肥大病変は, Schwann 細胞の代謝障害, 言い換えれぼ, Schwann 細胞の髄鞘形成不全によるものである可能性が示唆された.
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