連続脳血管撮影による脳循環時間測定の意義を明らかにすることを目的とし, 以下の検討を行った. 対象は1971年から1975年までの4年間に北里大学病院内科へ入院した脳血管障害252例および変性疾患等で脳血管写上正常であった12例の計264例である. これらの症例について連続脳血管写による脳循環時間の測定を行ない, 動脈硬化所見, 加齢, 高血圧の有無等との関係を検討した. また, このうち31例についてはN
2O法による脳循環測定を行い脳循環時間との比較検討を行った. 脳循環時間 (CCT) は内頚動脈サイフォン部最大充えいから静脈角出現までの時間とした. 脳硬塞例で主幹脳動脈閉塞を認めなかった160例については, 脳血管写上の主幹動脈硬化所見により硬化度を3段階に分類して検討した.
結果: 1) 正常群12例 (平均年齢40.1±15.3歳) の平均脳循環時間は4.17±1.03秒であった.
2) 急性期脳出血例では平均脳循環時間は6.33±0.99秒と著明に遅延しており, 急性期クモ膜下出血例では5.43±1.05秒であった. クモ膜下出血では急性例に比し慢性例で有意なCCTの短縮がみられたが, 脳出血では慢性期にもなお, CCTの遅延傾向がみられた.
3) 脳硬塞例では主幹脳動脈硬化の進展に伴って平均脳循環時間の遅延がみられ, 急性例では, 0~I度群で4.94±0.95秒, II度群で5.43±1.33秒, III度群で5.70±0.76秒であった. 中大脳動脈閉塞例で6.18±1.04秒と最も遅延していた.
4) 脳硬塞例においては発病後期間および高血圧の有無とCCTの間に明らかな関係は認められなかった.
5) 主幹脳動脈閉塞のない脳硬塞例において, 加齢の影響は71歳以上でみられ, 70歳以下群の平均脳循環時間に比して有意な遅延がみられた.
6) N
2O法により測定した脳血流量 (CBF) および脳酸素消費量 (CMRO
2) は脳血管写上の硬化度の進展に伴い減少傾向を示し, 脳血管抵抗 (CVR) は増加傾向を示した.
7) 脳硬塞例においてはCCTとN
2O法によるCBFは負の有意相関を示し, CCTとCVRとの間には正の有意相関が認められた.
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