日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者における褥瘡創面からの分離細菌に関する研究
伊藤 機一
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1978 年 15 巻 5 号 p. 471-484

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抄録
寝たきり老人403例 (平均75歳) の褥瘡創面における細菌学的検討を行った. 創面の進行状況をI度: 初期発赤型, II度: びらん形成型, III度: 潰瘍ないし瘻孔形成型の3群に区分し, 観察した. 検査材料は滅菌綿棒による swab を用いた.
(1) 褥瘡発症部位別の分離菌株数は殿部187株, 上背部27部, 下肢部25株を示した. 殿部から分離率の高かった菌種はE. coli, Klebsiella, Proteus などの腸内細菌であった. (2) 創面 (殿部) の分離菌種数は常にIII度>II度>I度の順を示し, 主分離菌はI度例は Staph. aureus>Corynebacterium>Staph. epidermidis で皮膚常在菌叢と類似し, III度例は Proteus mirabilis>Staph. aureus≧Strepto. faecalis≧Ps. aeruginosa> Klebsiella>E. Ooli>Other Gram-negative bacilli>Bacteroides と多種に及んだ. またIII度例1人当りの過去5年間の平均分離菌種数は, 好気性菌は4.0→2.8種へ, 嫌気性菌は0.5→0.4種へと減少傾向をみた. 菌種ではSt. aureus の分離率に増加をみた反面, E. coli, St. faecalis, Proteus, Bacteroides など多くの菌種に減少を認めた. (3) 主分離菌における常用抗生物質に対する感性率の変化のうち, 多菌種に一律にみられた Chloram phenicol (CP) に対する感性化の傾向は注目された. その理由として, CPが副作用等の問題で最近使用が激減したる“感性の復活”を考えた. (4) 褥瘡例の尿中細菌陽性 (105/ml以上) 例はIII度 (74%)>II度>I度のことによ順を示し, 重症褥瘡例ほど創面と尿から同一菌種が分離され, Pr. mirabilis, Klebsiella にその傾向が著しく, また双方からの細菌の抗生物質感受性パターンは類似をみた. 一方III度例の創面細菌組成は同じIII度例の糞便細菌叢と73%の一致率を認めた.
以上の結果は褥瘡の細菌感染が創面の細菌尿による汚染 (Pr. mirabilis, Klebsiella など) と糞便による汚染 (腸内細菌群と Bacteroides などの嫌気性菌) の影響が大きいことを示唆したが, これらの菌は opportunistic pathogen でもあるから汚染以外の因子も否定できない. 褥瘡の治療に際し,“創面の清浄化”は最も重要な事項であり, 不断の看護努力による点が大きいと思われた.
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