日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
15 巻, 5 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 第1報 片麻痺に合併する血管運動異常との関連について
    江藤 文夫
    1978 年15 巻5 号 p. 421-428
    発行日: 1978/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    肩手症候群は脳卒中後片麻痺の20%前後に合併し, 疼痛と関節可動域制限が著しいことから, リハビリテーションの阻害因子として重視される. 本症候群は反射性ジストロフィーとしてまとめられ, カウザルギーなどと類縁のものと考えられているが, その病態生理は不明な点が少なくない. 症状的には末梢循環における血管運動異常が重視される. そこで, 病態生理を明らかにするため, サーミスタ皮膚温度計, 光電指尖容積脈波計, 超音波ドップラー血流計を用いて, 片麻痺患者の末梢循環と血管運動異常について検討した.
    片麻痺患者の手では, 肩手症候群を呈する群では麻痺側で有意に皮膚温の上昇を認め, 指尖脈波についても脈波高の増大を認めた. 片麻痺発症後の時間的関連をみると, 3カ月以内の症例で著明であった. 本症候群の大半が脳卒中後3カ月までに出現することから, いくつか指摘される発症因子の中で, 麻痺肢血流増加に最も注目すべきである.
    遠隔性局所冷却刺激により生ずる上肢の血流変化を観察すると, 本症候群を呈する群では正常者群に比し有意に反応の低下がみられ, 麻痺側でその傾向がより目立った. これは脊髄以上に反射中枢を有する体性交感神経反射の1つと考えられるが, この反射の低下を認めたことは, 体性神経と交感神経を介した自己強化回路が脊髄介在ニューロン群において成立し, その反射亢進状態として本症候群の病態を説明する従来の仮説と必ずしも符合しない. 肩手症候群の発生機序および病態に関しては, 脊髄介在ニューロン群の反射性回路が関与するとしても, 原因疾患に応じて, より末梢あるいはより中枢の病態を検討する必要があり, 殊に片麻痺においては脳病変との関連を重視すべきと考えられる.
  • 第2報 脳損傷部位との関連について
    江藤 文夫
    1978 年15 巻5 号 p. 429-436
    発行日: 1978/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳卒中を始め各種疾患に合併することが知られている肩手症候群は, 反射性ジストロフィーの1型とされるが, その発生機序は充分には解明されていない. 片麻痺では約20%に合併し, リハビリテーションの重大な阻害因子となる. 心筋硬塞や外傷後に生じる場合と比較して, 発生してから進行する経過を通じての症候や機序はほとんど共通するとしても, 発症に関与する条件には個々の疾患により差が認められる. 片麻痺に伴う本症候群初期における特徴は, 麻痺側上肢の血流増大を主とした血管運動異常であり, また通常, 麻痺側に限って出現することであり, 発生の原因としては脳損傷が最も重視される. そこで本症候群の脳病変について検討するため, 東大老人科およびリハビリテーション部とその関連施設における片麻痺症例の中から本症候群を呈した剖検例7例と, 脳腫瘍の術後にリハビリテーションを目的に紹介された脳外科手術例3例について, それぞれの脳病巣の拡がりについて検討した. 剖検例は, 脳硬塞4例, 脳出血1例, 脳腫瘍2例である. 脳硬塞4例の共通病巣の範囲は中大脳動脈潅流域を広範囲に含むものであったが, 転移性脳腫瘍の1例は右半球前運動領を中心とする限局性病巣を有した. 外側型を呈した脳出血1例を除く6剖検例はいずれも前頭葉皮質に病変が及び, 最も共通する病巣の範囲は大脳前運動領を中心にその前後を含み, 中大脳動脈の潅流領域で, 前大脳動脈の潅流域に接する部分であった. 一方, 本症候群を呈する片麻痺27例の脳波について検討した結果では, 皮質を含む器質性障害が示唆され, 脳波異常は中心, 頭頂部誘導に目立った. また本症候群を伴う脳腫瘍3例の手術記載により病変の局在と拡がりについて検討した.
    以上の結果と, 既に報告した片麻痺末梢血流異常などの知見をあわせて, 肩手症候群の発生機序に関する推察を試みた.
  • 第1報 起立時循環動態に及ぼす加齢の影響に関する研究
    寺岡 賢治
    1978 年15 巻5 号 p. 437-445
    発行日: 1978/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    起立時の循環調節機能の加齢に伴なう変化を明らかにする目的で, 健常男子91名に非観血的方法による起立試験を施行した. 対象の年齢は19歳から83歳までで, 40歳未満の若年群, 40~59歳の中年群, 60歳以上の老年群に分類した. 観察した循環諸量は心拍数, 血圧, impedance cardiography 法による1回心駆出量, 分時拍出量及び全末梢血管抵抗の相対的変化, 左室収縮時間 (systolic time intervals, STI) 等でありQS2とLVETは心拍数補正を行った. 主として起立1分時と5分時の反応について検討し以下の結果を得た. (1)心拍数には臥位時, 起立時の値及び体位変換に伴なう変化ともに加齢の影響が認められなかった. (2) 起立時の拡張期血圧上昇の値と年齢との間には有意の負の相関があり, 中・老年群でその反応が低下した. 収縮期血圧の反応と年齢には有意の相関がなかったが, 老年群の起立1分時の下降は若年群に比べ有意に増大した. これらの反応の年齢による差異は起立1分時の方でより明らかであった. (3) 起立時の全末梢血管抵抗の上昇度, 分時拍出量及び1回心駆出量の減少度は, いずれも老年群でその変化度が低下する傾向を認めた. (4)安静臥位時のSTIは若年群に比べて中・老年群でQS2IとPEPの延長及びPEP/LVETの増大が有意であった. ETIには年齢による有意差を認めなかった. (5) 起立時のSTIの値は各年齢間で有意差がなかったが, 臥位から起立位への値の変化度ではPEPとPEP/LVETに年齢の影響が認められた. 即ち老年群では若年群に比べ起立1分及び5分時のPEPの延長度, 起立5分時のPEP/LVETの増大度がそれぞれ有意に低下した.
  • 第2報 起立時循環動態に及ぼす高血圧の影響に関する研究
    寺岡 賢治
    1978 年15 巻5 号 p. 446-453
    発行日: 1978/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高血圧の存在による起立時循環調節機能の変化を明らかにすることが本報の目的である. 対象は全例男子で心不全, 腎障害, 糖尿病等の合併症のない高血圧者102名と前報で述べた正常血圧健常者91名であり, 年齢により若・中・老年の3群に分類した. 高血圧者は若年群で固定性高血圧と境界域高血圧に分け, 中・老年群では主として心電図上の左室肥大の有無により2分した. 方法は前報と同様であり各年齢群の中で高血圧の影響について対照と比較検討した. (1) 安静時の心拍数は境界域高血圧のみ対照より有意に高く, 他群では対照との有意差がなかった. 起立時の心拍数増加は起立1分時で中・老年群の高血圧左室肥大群が対照より有意に低かった. 境界域高血圧の心拍数増加は対照との有意差はないが, 固定性高血圧に比べ有意に大であった. 起立5分時でも1分時ほど顕著ではないが同様の傾向を認めた. (2) 起立時の血圧の反応は老年群のみ, 高血圧と対照との有意差を認めた. 即ち左室肥大群で拡張期血圧の反応が有意に低下し, 収縮期血圧の下降も起立5分時に有意に増大した. 平均血圧でみると左室肥大 (-) 群も有意の反応低下を示した. (3) 起立時の全末梢血管抵抗の上昇度は高血圧群, 対照群ともに年齢と有意の負の相関を認め, 又各年齢群で高血圧者の上昇度が対照より低い傾向を示した. 起立時の分時拍出量の減少度も高血圧者が対照より低い傾向を認めた. (4) 安静臥位のSTIは若年群のみ対照との有意差を認めた. 即ち固定性高血圧でETIの短縮, PEPの延長, PEP/LVETの増大があり, 境界域高血圧はETIの短縮とPEP/LVETの増大が有意であった. (5) 臥位から立位への体位変換に伴なうSTIの変化度は, 若年固定性高血圧と中年高血圧左室肥大群でPEP及びPEP/LVETの増加度が低下する傾向を認めた.
  • 第3報 起立時循環動態に及ぼすニトログリセリンの影響に関する研究
    寺岡 賢治
    1978 年15 巻5 号 p. 454-462
    発行日: 1978/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    Nitroglycerin 舌下投与時の起立試験によって, 加齢及び高血圧による個体の循環調節機能の差異を明らかにすることが本報の目的である. 対象は正常血圧健常者28名と高血圧者51名の男子で, それぞれを前報のように若・中・老年群に分類し, 若年群では境界域高血圧と固定性高血圧を対比した. 主として Nitroglycerin 0.3mg舌下投与5分後の臥位と, それに続く70°傾斜位1分 (投与後6分) 時の循環動態を投与前と比較した. (1) Nitroglycerin 投与後の臥位での変化. (1) 心拍数が増加し, 境界域高血圧群では顕著であった. (2) 血圧は拡張期血圧が軽度上昇するのに対し, 収縮期血圧は下降する傾向があり, この下降は老年高血圧者で顕著であった. (3) 全末梢血管抵抗は増加し, 1回心駆出量及び分時拍出量は減少する傾向を示した. (4) QS2IとETIの短縮, PEPの延長, PEP/LVETの増大が認められた. (2) Nitroglycerin 投与後の起立1分時の循環動態. (1) 心拍数は投与後, その増加が著明となった. 投与前と投与後の起立時の増加数には有意の正相関を認めた. 境界域高血圧は投与後の増加が健常群より有意に高く, 中年高血圧では低かった. (2) 起立1分時の平均血圧の変化は, 投与前と投与後の間に有意の正相関があり, 投与後の方で下降する例が多いが, 拡張期血圧より収縮期血圧の下降が目立った. この収縮期血圧の下降は加齢とともに増大する傾向を示し, 老年高血圧で特に著明であった. (3) 全末梢血管抵抗の上昇度は投与後の方が低下し, 1回心駆出量の減少度は増大したが, 分時拍出量の減少度は投与前後でほぼ不変の傾向を示した. (4) 起立時のSTIは投与後にQS2IとETIがさらに短縮した. PEPは若・中年の健常群で投与後の起立時延長度が小さく, 投与前に比べ短縮したが他群ではほぼ不変の傾向であった. PEP/LVETは投与後の起立の方が増大する傾向を示したが, 若年健常群ではほぼ不変であった.
  • 高脂血症を中心として
    清水 能人, 木畑 正義
    1978 年15 巻5 号 p. 463-470
    発行日: 1978/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    血清Eの測定を, 近年開発された, 迅速, 簡便な蛍光法を用いて行い, 各種疾患との関連性を中心に検討した.
    健常若年者の血清Eは1.01±0.23mg/dlで加齢と共に多少の上昇をみた.
    血清Eが低値を示す疾患としては, malabsorption syndrom などの吸収障害を示す疾患や, 肝障害などの Vit E の Carrier 蛋白の合成低下の考えられる疾患や, 脳卒中, 心筋硬塞などの Vit E の消費される事が考えられる疾患など多くの例で低E血症がみられた. 逆に高値を示す疾患としては, 糖尿病, ネフローゼ, 高脂血症などがあるが, 従来より多くの研究者の目は低E血症に向けられており, 高E血症に関する知見は少ない. そこで著者らは, 高脂血症における血清Vit E の動態につき検討した. 健常成人, 高脂血症共に, 血清脂質と血清Eとの間に正相関が得られたが特に cholesterol, β-リポ蛋白で高かった.
    健常成人の血清リポ蛋白中のEはHDL分画に多く含まれていたが, 高脂血症では各型に応じた特色がみられ, IIa型ではLDL分画に, IIb型ではVLDL, LDL分画, IV型ではVLDL分画に Vit E が多く含まれていた. 天然の Vit E である d-α-tocoperyl acetate 300mg/dayの投与により, 健常成人では血清脂質の変動はみられなかったが, 高脂血症では投与後4週で中性脂肪の低下をみた. 血清E値は投与後2週で両者共に投与前の2倍以上の値になり, 以後著変がなかった. しかし高脂血症が投与後2, 4週共, 健常成人に比し血清E値は常に著しい高値を示した. 血清Eと疾患との関連性を高脂血症を中心に検討し, 各種疾患との間に深い結びつきが推察され, 臨床的にも血清Eの測定が意義深いものと思われた.
  • 伊藤 機一
    1978 年15 巻5 号 p. 471-484
    発行日: 1978/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    寝たきり老人403例 (平均75歳) の褥瘡創面における細菌学的検討を行った. 創面の進行状況をI度: 初期発赤型, II度: びらん形成型, III度: 潰瘍ないし瘻孔形成型の3群に区分し, 観察した. 検査材料は滅菌綿棒による swab を用いた.
    (1) 褥瘡発症部位別の分離菌株数は殿部187株, 上背部27部, 下肢部25株を示した. 殿部から分離率の高かった菌種はE. coli, Klebsiella, Proteus などの腸内細菌であった. (2) 創面 (殿部) の分離菌種数は常にIII度>II度>I度の順を示し, 主分離菌はI度例は Staph. aureus>Corynebacterium>Staph. epidermidis で皮膚常在菌叢と類似し, III度例は Proteus mirabilis>Staph. aureus≧Strepto. faecalis≧Ps. aeruginosa> Klebsiella>E. Ooli>Other Gram-negative bacilli>Bacteroides と多種に及んだ. またIII度例1人当りの過去5年間の平均分離菌種数は, 好気性菌は4.0→2.8種へ, 嫌気性菌は0.5→0.4種へと減少傾向をみた. 菌種ではSt. aureus の分離率に増加をみた反面, E. coli, St. faecalis, Proteus, Bacteroides など多くの菌種に減少を認めた. (3) 主分離菌における常用抗生物質に対する感性率の変化のうち, 多菌種に一律にみられた Chloram phenicol (CP) に対する感性化の傾向は注目された. その理由として, CPが副作用等の問題で最近使用が激減したる“感性の復活”を考えた. (4) 褥瘡例の尿中細菌陽性 (105/ml以上) 例はIII度 (74%)>II度>I度のことによ順を示し, 重症褥瘡例ほど創面と尿から同一菌種が分離され, Pr. mirabilis, Klebsiella にその傾向が著しく, また双方からの細菌の抗生物質感受性パターンは類似をみた. 一方III度例の創面細菌組成は同じIII度例の糞便細菌叢と73%の一致率を認めた.
    以上の結果は褥瘡の細菌感染が創面の細菌尿による汚染 (Pr. mirabilis, Klebsiella など) と糞便による汚染 (腸内細菌群と Bacteroides などの嫌気性菌) の影響が大きいことを示唆したが, これらの菌は opportunistic pathogen でもあるから汚染以外の因子も否定できない. 褥瘡の治療に際し,“創面の清浄化”は最も重要な事項であり, 不断の看護努力による点が大きいと思われた.
  • 1978 年15 巻5 号 p. 485-521
    発行日: 1978/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
feedback
Top