日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
ねたきり老人の臨床的検討. 心電図所見を中心として
中野 小枝子佐藤 磐男松原 充隆前田 甲子郎中尾 裕子熊田 和徳
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1979 年 16 巻 4 号 p. 320-328

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抄録

3カ月以上ADL5点以下の寝たきり老人患者124例 (A群) と通常生活中の老人ホーム在住者273例 (B群) および3カ月以上寝たきりの後死亡した老人剖検例112例 (C群) を対象に, その心電図所見と基礎疾患, 臨床所見および心臓病理所見とを比較検討し次の結果を得た.
1) 長期臥床の原因疾患として脳卒中後遺症41.1%, 骨, 運動器疾患30.6 (大腿骨頚部骨折16.1%), 精神障害7.3%が多いが, これら運動機能障害の直接原因となるような疾患を持たない症例も25.8%にみられた. 2) A群の96.8%に心電図異常がみられ, これはB群の76.2%に比し高率であった. 3) A群の心電図異常は低電位差37.1%, 虚血性ST・T変化33.9%, 左室肥大29.8%, 非特異的ST・T変化29.8%が多く, このうち低電位差が最も特徴的で, また高率にST・T変化を合併した (76%). 4) A群のうち低電位差を示した群 (LV群) と示さなかった群 (非LV群) との比較では年齢, 血圧, 心拍数, 血清蛋白, 血色素量, 血清電解質に差を認めなかった. 四肢の浮腫はLV群が22%で非LV群の19%と差を示さなかった. 5) この低電位差心電図は寝たきり期間の延長や死亡時期に近づくにつれて高頻度となった. 6) C群のLV群では死因に心不全が多く (42%), 心臓病理所見では心筋褐色萎縮42%, 心肥大34%, 脂肪変性22%, 心筋梗塞18%, 散在性線維化16%などが多くみられた.
以上の結果から, 寝たきり老人患者は高頻度に心電図異常を合併する. そのうち低電位差が最も特徴的所見である. この低電位差はこれら患者の心障害を反映し, その予後推定因子として臨床上重要であると考えられた.

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