日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
ヒト肝細胞内リポフスチン沈着様相の年齢的消長と環境要因
その1 在日日本人と米白人剖検例の比較
佐藤 秩子田内 久
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1979 年 16 巻 4 号 p. 329-338

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抄録

加齢に伴って増加するといわれるリポフスチンの肝細胞における発現様相の年齢消長検討の一環として, 21歳から116歳迄の在日日本人男子剖検例89例, 22歳から89歳迄の在米白人男子剖検例97例の肝組織について, 蛍光顕微鏡写真による量的分析を行った.
在日日本人ではリポフスチン顆粒保有肝細胞数は, 80歳以上で有意に増加すると共に肝細胞あたりの色素量は70歳以上から顕著に増加し, 個々の顆粒も粗大化してくる.
在米白人では, 色素保有肝細胞数はゆるやかに加齢と共に増加し, 80歳以上では中心層においてのみ有意な増加となる. 肝細胞あたりの色素量は60歳代迄有意に増加するがその後はあまり変らない.
色素保有肝細胞数, 色素量ともに両群とも辺縁層におけるよりも中心層において多い. また色素保有肝細胞数, 肝細胞あたりの色素量の平均は, ともに在日日本人に比し, 米白人例に有意に多いが, 個々顆粒の大きさは, 70歳以後の在日日本人例で顕著に増加し, 在米白人を凌駕し, 両者の関係は逆転する.
田内らが本質的な老化の形態学的指標としている肝細胞の逐齢的減数と, リポフスチン顆粒の逐齢的増加との関連性については, 細胞減数のつよい在日日本人高齢者群でリポフスチンが顕著に増加し, 老性減数の比較的緩徐な米白人例高年群における色素の増加が僅かである点は興味深い. しかし個々の例における肝細胞数と, リポフスチン量との間の反比例的傾向を全くは否定出来ないが, 推計学的には有意な相関をみる事が出来なかった.
又色素量と肝内動脈硬化度との間にも, 有意な相関をみなかった. 何れにしても一般に加齢に伴って増加するこの色素の沈着がある程度老化の指標になり得る点を否定出来ないが, 本質的な老性変化とは考え難く, その生成, 代謝, 排泄の機構に関して尚多くの問題が残されている点が示唆された.

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