日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老人の大腿骨頸部骨折に関する患者対照研究
勝野 真人金森 雅夫佐藤 龍三郎高岡 幹夫新開 省二近藤 高明加藤 春樹里見 宏久保 奈佳子籏野 脩一七田 恵子林 泰史
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1986 年 23 巻 6 号 p. 552-558

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抄録

大腿骨頸部骨折は, 老人の活動を長期間阻害し, ねたきり老人の一因ともなる. しかし, わが国ではそのリスクファクターに関する研究は極めて乏しい. そこで今回, 患者対照研究を行なった. 調査対象としては, 東京都養育院のホーム入所者及び同院付属病院整形外科の入院・外来患者の中から, 過去3年以内に大腿骨頸部骨折の既往のある女性40名を得て骨折群とし, これに施設・性・年齢をマッチさせて対照群40名を抽出した. 平均年齢は79歳であった.
骨折に関連すると思われる要因として, 牛乳, パン, 肉, 魚, 豆腐の摂取習慣, 職業・余暇の運動量, 飲酒・喫煙習慣, 妊娠・月経歴, 転倒経験, 服装, はきもの, 性格, 痴呆の有無, 身長, 体重, 血圧, ヘモグロビン, 血清アルブミン, カルシウム, リン, アルカリフォスファターゼ, MCI (中手骨皮質幅指数) GSmax (骨皮質密度), 残存歯数, 握力, 開眼片足立ち持続時間, などに関して面接調査と既存の検査成績から得た情報を集計, 解析した.
骨折群は対照群に比して, 有意に肉をよく食べる者が多く, 豆腐をよく食べる者が少ない, 体重が少なく, BROCA指数も小さい, 閉経年齢が低い, 頻回転倒者の割合が高い. 痴呆の者が多い, 血清アルブミンが低い, との結果を得た. MCI, GSmaxには差が認められなかった.
老人の骨折は, 骨粗鬆症を背景として, 転倒などを契機に起こることが多いと考えられるが, 痴呆とも関連が深い. 女性では早い閉経, やせはリスクを高める. 骨粗鬆症は, 加齢に従い生理的にもカルシウム代謝平衡が負に傾くために起こるが, 肉などの高蛋白食は負に, 牛乳, 豆腐などの高カルシウム食は正に作用するものと考えられる. しかし, 全身の骨量が一様に減少するわけではなく, 中手骨の骨量は必ずしも大腿骨頸部骨折のリスクを表わさない可能性がある.

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