日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者の噴門形態と機能
松久 威史大島 博
著者情報
ジャーナル フリー

1986 年 23 巻 6 号 p. 605-610

詳細
抄録

胃内視鏡の反転法により観察される噴門形態を7型に分類し, 60歳以上の老年者の噴門形態の特徴を検討した.
噴門形態を年齢別にみると, 噴門の閉じたI, II型は老年者において他の年齢層より少ない. それとは逆に, 噴門の開大したIV, V, VI型の症例は老年者に多くなる傾向がある.
食道, 胃内圧および下部食道括約部圧をトランジューサー (Gaeltec 社製) を用いて測定し, それらの成績を噴門形態別に観察した. 下部食道静止圧を測定した老年者の平均値 (-1.6±0.4(SE)cmH2O) は, 若, 中年者のそれに比べわずかに低い傾向を示した. また, 噴門形態がI型 (鋭角型), II型 (円形閉鎖型) を示す老年者の残留胃内圧平均値 (8.8±0.9(SE)cmH2O) は, 若, 中年者の平均値よりやや低かった (p<0.1). 一方, 下部食道括約部圧を測定した老年者のうち, 噴門形態がIV, V, VI型の平均値 (35.3±3.7(SE)cmH2O) は若, 中年者の平均値より低値を示した (p<0.1). さらに, 老年者の下部食道括約部圧平均値 (36.9±2.5(SE)cmH2O) も若, 中年者のそれより低く有意差を認めた (p<0.02).
他方, 早朝空腹時の血中ガストリン, セクレチン値を測定し, それらを対照群, 胃・十二指腸潰瘍群に分け, 各々について年齢別, 噴門形態別に検討した. 対照群の血中ガストリン値を60歳代と70歳以上に分けて観察すると両群とも中年者の平均値よりわずかに低値 (各々75.0±17.5(SE)pg/ml, 73.5±11.7(SE)pg/ml) を示した. また, 胃・十二指腸潰瘍患者の血中ガストリン値は若, 中年者の平均値よりも老年者の方がわずかに低かった (73.4±9.2(SE)pg/ml). これは, ガストリンのいわゆる下部食道括約部圧上昇作用ともよく一致している. さらに, これらの症例を噴門形態別にみても対照群, 胃・十二指腸潰瘍群とも形態との間に有意差を示さなかった. 一方, 血中セクレチン値は対照群, 胃・十二指腸潰瘍例とも各々年齢, 噴門各型の間に相関関係あるいは有意差を示さなかった.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top