日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
軽度の心悸亢進を主訴とした高齢者肺血栓塞栓症の1例
中野 博司南 順文武内 寛野崎 太矩祠大庭 建三妻鳥 昌平盤若 博司高田 加寿子高野 照夫本多 一義
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1986 年 23 巻 6 号 p. 611-615

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抄録

症例86歳, 男性. 前立腺癌術後7年. 右下肢の浮腫を主訴に入院. 入院時, 右下肢の軽度の浮腫および皮膚温の低下を認めた. 前立腺癌は, 被膜を越えた浸潤および胸腰椎への転移を認めた. 入院中歩行時に突然に心悸亢進が出現, 頻脈および頻呼吸を伴った. 心電図は洞性頻脈で, I誘導のS波, V1~V3誘導でR波の減高, V1~V5誘導でT波の逆転を認めた. 右心カテーテル検査で軽度の肺高血圧および右心負荷を認めた. 血清諸酵素値の上昇は認めなかった. 肺血栓塞栓症を疑い肺血流スキャンを施行, 右上および中肺野に血流欠損部を認めた. 急性期に urokinase の少量投与を行い, 以後 ticlopidine を投与した. 血流欠損部は経過とともに縮小した. 下肢静脈スキャンで深部静脈血栓症を認めた.
肺血栓塞栓症の発生頻度は, 加齢と伴に増加するが, その生前の診断率はいまだ低い. 本症の自, 他覚所見および検査所見の非特異性に加え, 老年者の多病性がその診断を困難にする. 深部静脈血栓症の risk を有する老年者が急性の非特異的な心肺系の症状を呈した場合は, 本症を考慮する必要がある.

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