日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者における亜鉛の吸収と排泄
宮田 学奥野 資夫島村 佳成三宅 健夫
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1987 年 24 巻 3 号 p. 272-277

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抄録

亜鉛は生体にとって重要な必須微量元素である. 加齢による亜鉛代謝の変化を検討する目的で, 血清亜鉛濃度の経年的変動, 亜鉛の吸収および排泄の老若差をしらべた.
血液生化学多項目同時測定により, 肝機能, 血清総蛋白, 血清アルブミン, 総コレステロール, 尿酸, BUN, 血糖など14項目すべてが正常範囲にある男285例, 女380例, 計665例について血清亜鉛濃度をフレーム原子吸光法により測定した. 20歳代より70歳代までの10歳区切りの年代別血清亜鉛濃度は加齢による変動を示さなかった. 各年代とも男が女よりやや高値であったが有意の差ではなかった. 成人の血清亜鉛濃度の正常範囲は, 20歳より35歳の健常男女の平均±2標準偏差として60~120μg/dlであった.
亜鉛の腸管吸収を経口亜鉛負荷試験により検討した. 早朝空腹時に硫酸亜鉛220mg (亜鉛50mg含有)を約300mlの水に溶かして飲用させ, 投与前および投与後30分, 60分, 120分, 180分後の血清亜鉛濃度を測定した. 45歳以下の若年健常者8例と70歳以上の老年健常者7例で比較すると, 前値は老若間に差異はなく, 負荷後30分 (p<0.01), 60分, 120分, 180分 (いずれもp<0.05) で有意に老年群で低値を示した.
亜鉛の主要排泄経路である膵液中への分泌は, パンクレオザイミン・セクレチン試験中の70分間に平均0.18mgであり, 老若群間に総排出量および排出パターンの差異は認められなかった.
老年者では, 亜鉛の腸管における吸収能に低下がみられ, 潜在的亜鉛欠乏状態に陥りやすいと考えられる. 亜鉛は免疫能や蛋白合成に重要な役割を果しており, 高齢者の栄養指標として注意をはらう必要がある.

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