日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
運動負荷試験誘発狭心痛の意義
加齢に伴う変化の検討
高木 洋佐藤 磐男桝田 出下村 克朗
著者情報
ジャーナル フリー

1991 年 28 巻 2 号 p. 152-159

詳細
抄録

運動負荷試験で誘発される狭心痛 (EA) の有無が冠動脈疾患の重症度や予後を反映するか否かについては相反する意見がある. 高齢者では無痛性心筋梗塞が多いことから, EAの出現率やその意義が加齢に伴い変化する可能性が考えられる. そこでトレッドミル運動負荷試験 (TM) 連続983例のEA出現率を年齢別に算出した. さらに, 冠動脈疾患の精査のために冠動脈造影を行った症例のうち糖尿病や心筋梗塞を合併しない142例で, TM所見とCAG所見及び平均29カ月の予後とを対比し, 老年者のEAの意義を壮年者と比較した.
TM983例の年齢別検討ではST変化やEAによるTM陽性率は59歳以下に比し, 60歳以上で高く(24:36%, p<0.001), 心筋梗塞の合併症も高率 (16:27%, p<0.01) であったが, EA出現率は低下傾向を示した (58:47%).そこで冠動脈造影142例を59歳以下の壮年群と60歳以上の老年群の2群に分けて比較すると, TM陽
性率(69:72%) やEA出現率 (50:53%), 平均冠病変枝数 (1.3±1.1:1.5±1.1) に差はなかった.壮年群ではEA出現例が非出現例に比べ, 運動時間は短く (8.6±3.0:6.3±2.1分, p<0.001), ST index やST/HR slope によるST低下度は高度で (-1.8±1.5:-0.3±2.2, p<0.001) (15.3±11.7:8.1±8.8μV/bpm, p<0.05), 平均冠病変枝数も多く (1.7±1.0:0.9±1.0, p<0.01), その後の冠血行再建術施行率 (67:21%, p<0.001) や予後観察終点での狭心痛残存率 (33:14%, p<0.05) も高率であった. しかし, 老年群ではいずれの比較でもEAの有無による差はなかった. 予後観察中に3例の心臓死と5例の心筋梗塞があり, 梗塞5例中4例がEA出現例で, 4例が老年群であった. 以上の結果より運動負荷試験による誘発狭心痛の意義は加齢に伴い相違し, 壮年者では狭心痛出現例が非出現例に比べ, 冠動脈病変は高度で予後も不良と考えられるが, 老年者では狭心痛出現の有無で差はないと思われた.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top