日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者急性心筋梗塞の二次予防に対する抗血小板, 抗凝血薬療法の意義と長期予後
坂井 誠久保木 謙二前田 茂上田 清悟桑島 巌大川 真一郎松下 哲蔵本 築上田 慶二
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1992 年 29 巻 1 号 p. 29-34

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抄録

急性心筋梗塞の二次予防に対する抗血小板, 抗凝血薬療法の意義については未だ不明であるが, 我々は退院後の予後を観察しえた60歳以上の初回急性心筋梗塞133例 (男75例, 女58例, 平均年齢75.2歳) を対象とし, 老年者における本療法の長期投与の有用性, 安全性について retrospective に検討した.
初回梗塞部位は前壁62例, 後壁49例, 側壁7例, 心内膜下15例であり, 平均観察期間は36.6カ月 (3~110カ月) であった. 全例を抗血小板, 抗凝血薬投与群 (I群75例), 非投与群 (II群58例) に分け, I群をさらに, 観察期間中継続投与されたIa群49例, 投与中止されたIb群26例に分類した. 投与された抗血小板薬はチクロピジンが54例, アスピリンが12例, 抗凝血薬はワーファリンが9例であった. I, II群の男女比, 平均年齢, 梗塞部位, 併用薬, 急性期最大CPK値, 回復期左室駆出率には差を認めなかった. 観察期間中, 総死亡は40例(心死18例, 心外死22例), 梗塞再発は19例, cardiac events 発生は37例であった. 生命表分析法により両群の生存率, 再梗塞発生率, cardiac events 発生率を比較すると, I群はII群に比較して約5年間再梗塞の発生が有意に減少し (発症5年後累積発生率7.4% vs 27.5% p<0.05), 生存率も改善したが (発症5年累積生存率75.8% vs 51.0%), cardiac events 発生率は両群で差はなかった. Ib群中, 出血症状, 消化器症状, 肝障害などの副作用による投与中止例は10例であり, I群中の13%の頻度であった. そしてIb群中, 投与中止後4例に梗塞再発を認めた.
副作用出現頻度からみても老年者においても本療法の長期継続は可能であり, 禁忌がない限り急性心筋梗塞の二次予防として積極的に用いられてよい方法と思われた.

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