日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老齢者の便秘と体温の関係について
島田 敏實竹越 忠美
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1992 年 29 巻 12 号 p. 945-952

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抄録

老齢者の糞便貯留と体温との関係を明らかにする. 対象は65歳以上の入院患者34人 (男11人, 66歳から82歳, 平均70.3歳. 女23人, 65歳から84歳, 平均72.1歳. 全平均71.5歳) で毎日1回以上排便のある患者 (NCP) であるか3日間以上排便のない患者 (CP) である. CPにおいては排便前排便日を含んだ2日間における最低体温, 最高体温, および排便後排便日を含んだ2日間における最低体温の計3つの測定値を得た. NCPにおいては毎日排便があるので無作為に3日間を取出しその第1日の最低体温, 第2日の最高体温, 第3日の最低体温の計3つの測定値を得た. CPで排便前には28人中6人(21.4%) が37.3℃以上であった. NCPでは排便前の最高体温が平均36.39℃, 排便後の最低体温は平均36.0℃で, 排便前後の体温差は0.39℃であるが, CPでは排便前最高体温が37.03℃, 排便後最低体温が36.1℃で前後で体温の低下が0.93℃に及び差は0.54℃であった (F検定, p<0.001). 男女間ではNCPで差を認めず体温の変化は0.39℃に止まり, CPでは男女とも体温変化が強く女性が0.85℃男性が1.02℃であった (p<0.05). 緩下剤服用者の方が変化度が小さかった. 脳梗塞, 脳溢血や老人性痴呆をもつ患者ともたない患者とを比較してみると, NCPではその他の疾患と比較し差を認めなかったがCPでは中枢神経障害者で体温変化が大きかった(p<0.05). 糖尿病患者は非糖尿病患者に比しこの体温変動は有意差を示さなかった. NCPの年齢別にみた排便前後の体温の変化は加齢とともに大きくCPにおいては各年代とも体温変動が大きかった. 排便前後の白血球数は低下, 血沈が高進, CRPは変化せず体温は低下しエンドトキシンは減少又は不変であった. NCPの高齢者は糞便貯留により体温が上昇しやすいが糞便が貯留し便秘となると老齢者では年齢にかかわらず体温が排便後と比較し平均0.93℃上昇することが判明した.

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